【陶芸家・古谷浩一】使い手を想い、生まれる器。完璧ではない”揺らぎ”の中にある美しさが、日々の食卓を彩る
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——まず、陶芸の道に入ったきっかけを教えてください。
元々、父と母がこの仕事をしていたので、小さい頃からずっとその姿を見て育ったんです。
当時の製陶所では、すでにスタッフもたくさんいて、みんなでワイワイ楽しそうに仕事をしているのがすごく印象的でした。それを見ていて、「自分もやってみたいな」と自然と思うようになっていたんです。
——ここを継がなくてはいけないというプレッシャーなどはなかったんですか?
実は、父から「後を継いでくれ」と言われたことは一度もないんです。
昔の人には珍しく、「好きなことをしたらいいよ」という感じで接してくれていたんです。
ただ、小さい頃から自然とこの仕事に触れる機会が多かったので、純粋に「楽しそうな仕事だな」と思って始めましたね。

——陶芸を続ける中で、嬉しいと感じる瞬間はどんなときでしょうか。
自分の作った器を使っていただいている場面を見る機会が増えたことですね。それが何より嬉しいです。
昔は、自分が作ったものがどういうふうに使われているのか分からなかったんです。
でも今はSNSもあって、実際に使われている様子を見ることができますよね。
自分では想像していなかったような使い方を発見することもあって、それを見るのがとても楽しいです。

——反対に、辛いと感じることもありますか。
頻繁ではないですけど、たまにあります。
僕たちは自然の原料を使っているので、急に土の性質が変わることがあるんです。
例えば、土の鉄分が通常よりも多く出てきたりすると、化粧掛けで白い泥をかけた時に、土と化粧の収縮が合わなくなったりするんです。
そうすると、剥がれたり、割れたりすることもあります。
そういう失敗が、自分の想像していないところで急に出てくるのは結構辛いですね。
——そういう時は、どのように対処されるのでしょうか。
まずは原因を探します。「これじゃないか」という可能性を、とにかく全部試していきます。
例えば、表面の切れが多かったら、乾燥時間をゆっくり長くするとか。土の性質に合わせて、いろいろ調整していきます。
結局見つからないこともあるんですけど、そういう時はそれが過ぎ去るのをじっと待つしかないんです。
一日に100〜200個くらい作るんですけど、それが全部ダメになることもあるので、さすがにその時はへこみますね。笑

——作品のインスピレーションは、どのようなところから得ていますか。
僕はフットワークが軽い方なので、海外に行った時もいろいろ巡って見たりしますし、日常生活の中でも常に何かを探している感じですね。自然とそうしています。
あとは木工やガラス工芸など、他の工芸を見るのもすごく好きです。陶器以外のものからインスピレーションを受けることの方が多いかもしれません。
実は陶芸を見る時は、あまりじっくり見ないようにしています。見すぎると影響されすぎてしまうので。
遠目にふわっと見て、「自分だったらこういう形にするかな」と想像するくらいですね。だから、陶芸家さんの個展にもあまり行かないんです。いつも遠くから応援しています。

——ご自身の作品における「個性」については、どのように考えていますか。
実は、個性を追求しようという気持ちはあまりないんです。もちろん自分の中から出てくるものもありますが、それよりも使い手の方から影響を受けることの方が多いですね。
「誰かのために作りたい」とか、「こういうシチュエーションで使ってほしい」とか、そういう思いから作品になることが多いです。
クラフトフェアなどで自分で店頭に立つようになってから、より強くそう思うようになりました。

——制作の方法についても、こだわりがあるのでしょうか。
機械などは使わず、昔ながらのやり方で、自分たちの手で作るということにはこだわっています。やっぱり、人が作るからこそ作り手の想いが届くんじゃないかなと思っているんです。
また、手作りならではの器の「揺らぎ」も大切にしていることのひとつです。
例えば、料理を盛った時に、揺らぎのある器と、まったくそれがない器では印象が全然違うんです。
完璧なものと完璧なものを合わせると、もちろん綺麗にまとまると思うんです。でも、手料理ってそこまで完璧ではないじゃないですか。だから、少し揺らぎのある器の方が合うんじゃないかなと思っています。
なので僕は、揺らぎがある器が好きですね。

——制作において大切にしていることは何でしょうか。
とにかく作ることですね。とにかくたくさんの数を作ること。
そうしていると、自然と作品のクオリティも上がっていきますし、気付きも増えていきます。頭の中で考えているより、手を動かしながら考えた方がアイデアも出てくると思うんです。
だから毎日、どれだけ手を動かせるかが大事なんじゃないかなと思っています。最初から完璧を目指すというよりは、作り続ける中で少しずつ良くなっていけばいい、という感覚ですね。
——若い頃はどのように活動されていたのでしょうか。
若い頃って、やっぱりお金がないじゃないですか。なので、製陶所の仕事が終わったあと、夜に一人で自分の作品を作っていました。
そしてそれを売るために、クラフトフェアにたくさん出店していました。今でもそうですが、本当にたくさんのクラフトフェアに出ましたね。
僕自身、作品を作るのが好きなので、いっぱい作って、見てもらって、買ってもらう。そうすると作品がなくなるので、また作れる。
その繰り返しで、今もずっと続けています。
でも初めて信楽陶器市に出店した時は、5個しか売れなかったんですよ。
その時は本当にヘコんでしまったんですが、同時にその理由をひたすら考えました。
「何がダメだったんだろう」「ラインナップが足りなかったのかもしれない」とか。
でも売れなかった理由はシンプルで、お客さんのことを見ていなかったんです。自分が作りたいものを作って売る、という感じでした。
なので「どうしたらみんなに喜んでもらえるか」を考えるようになってからは、状況が少しずつ良くなっていきました。
「これは僕の表現です」と言うより、「こういう料理のための器です」と伝えた方が、お客さんもイメージしやすいと思うんです。
この考え方の変化は、僕のモノづくり、そしてキャリアにとっても大きな転機になったと思います。

——古谷さんにとって、陶芸とはどんな存在でしょうか。
僕にとっての陶芸は、生活そのものですね。
アートだとも思っていないですし、道具とも少し違う。もう暮らしそのもの、という感覚です。
なので陶芸は、暮らしの中でホッとしたり、人を楽しませたりするものであり続けてほしいと思っていますし、そういうものを作り続けたいと思っています。

——これからの展望について教えてください。
実は、あまり大きく変化していきたいとは思っていないんです。今の状態がすごくいいなと思っていて、なるべくこの状態を長く続けていきたい。
とはいえ、もっと長期的な目線もあります。
なので、もし僕がいなくなったとしても、この製陶所が続いていくようなやり方を考えていきたいですね。
僕も父から引き継いで今があります。だから、次の世代にも引き継いでいきたいですし、その世代がまた多くの人に喜んでもらえるような器を作り続けてほしいと思っています。
先頭に立って頑張れるうちは、しっかり頑張りたいですね。次の世代に、良い背中を見せられたらいいなと思っています。
