【Potter:八田亨インタビュー前編】器で美意識を共有する

【Potter:八田亨インタビュー前編】器で美意識を共有する

------陶芸家を志した経緯を教えていただけますか?

「大学に入るまでは陶芸の経験はありませんでした。

大学で環境デザイン学科に入学し、授業の一環で陶芸と出会いました。最初から陶芸に惹かれたわけではなく、むしろ照明の授業が楽しくて。

就職も照明業界にと思っていましたが、就職氷河期や家庭の事情でなかなかうまく行かなかったですね。

そして照明関係の会社は、主にデザインがメインで自分が手を動かして照明を作るという工程は少ないと聞きまして。

私はもっと自分の手で作り続けられる仕事をしたいと考えていたので、ここから陶芸にシフトしました。

大学を出るまでに轆轤の技術だけでも習得しようと修行を重ねました。作れば作るだけ自分の技術が上達するのが楽しかったです。

その後夢洲陶芸館の就職試験に合格しまして、陶芸家としての最初のステップを踏み出しました。」

------なるほど、作り続けたいという意志がオリジンなのですね。

------ 続いて、陶芸の魅力について教えていただけますか?

「私が思う陶芸の面白さは、自然の美しさを引き出すことができる点にあると思います。

陶芸は最後に焼く工程が入ります。つまりは最後の一手を自然に任せるわけです。

他の工芸ももちろん素敵ですが、完成を自然に任せるのは陶芸だけだと思っています。

私は自然が完全に美しいという考え方を持っているので、作品を通して自然の美しさを表現できる陶芸になんとも言えない魅力を感じているんです。」

------自然が完全に美しい。素敵な言葉ですね。完成を自然に任せるのは、楽しい反面難しい部分があると思いますが、火や土とはどのように向き合っておられますか?

 「半分は諦めです。私の窯には500点ほど作品が入ります。なので、ピンポイントで狙った表現を出すことは難しいです。

よく、窯出しは楽しいでしょと言われますが、実は窯出しが一番嫌な作業、憂鬱な作業と言ってもいいくらいです。

作品のほとんどは自分が想像したものと違った形で焼きあがります。

日々その結果と向き合って、客観的な視点も入れながら自分の許容を広げる。

そんなことを繰り返しているうちに、今ではコントロールできないものを愉しむこともできるようになりました。」

------コントロールできないことを愉しむ。どこか修行のようなお言葉ですね。八田さんの考える理想の器はどんなものでしょうか?

「ずばり一言で言いますと、使うところを想像できる器です。

たとえ何も入っていなくても、料理にしろ飲み物にしろ、使うシーンが想像できる器が私の理想です。」

------確かに、八田さんの器は何を入れれば美しくなるか考えたくなる器ですね。何を入れようかと考えている時間が楽しいと言いますか(笑)。他の器にはない八田さん特有の魅力ですね。

------理想の器のために土にもこだわっておられるそうですね。

 「先ほどもお話ししたように、陶芸の魅力は自然の美しさを引き出せることだと思っています。

なので、素材選びの時点でも自然の美しさを引きだせるかどうか、この点をすごく意識しています。

土も無尽蔵にあるわけではないので、今はいろんな産地の土をブレンドしながら、自分の理想的な作品に近づくよう工夫をしています。

土づくりに限らず、轆轤の引き方や窯の焚き方についても一貫して『どうすれば自然を表現できるか』、この点を意識しています。

自然の持つ美はどんな文化、どんな人種の人にも届くと私は思っているもので。」

------器を通して言語に頼らなくても会話ができるということですね。たとえ言語が違っても美意識の点で分かり合える。魅力に溢れた情景ですね。

------素敵な工房ですが、工房にもこだわりをお持ちですよね?

「ちょうど二人くらいで作業できる、広くもなく狭くもない空間。これが今の理想ですね。広すぎると物ばかり増えていきますから。

あとは、制作のモチベーションを保てる環境づくりにこだわっていますね。

毎日制作をしているわけですが、ただ手を動かしていたらいいモノが出来上がるということではなくて。

やはり、日々の感情の変化の中で制作へのモチベーションを一定に保つことが求められると思います。

なので、好きな音楽をかけてみるとか、色々と工夫をしながら制作しやすい環境を自分なりに整えています。

例えばですが、汚れた工房だったら来ることも嫌になるじゃないですか。

そういう環境やモチベーションではいいモノは出来上がらないと思っています。」

------自分のモチベーションを保つ。私の仕事をする上でのアドバイスをいただいた気持ちです。窯にもやはりこだわりが?

「まずは、舞洲陶芸館の話をしないといけませんね。

ここは大阪湾の海底トンネル掘削時に出た粘土を焼き物に再利用するために生まれた施設です。

登り窯があって、薪を焚いて直火で焼いています。これがとても面白かったですね。

居ぬきで見つけた物件には薪窯がなくて、穴窯を作ってしまいました。

実は、薪で焚ければなんでもよかったんです。自分で焚ける薪の窯がどうしても欲しかった。」

------火に魅せられたということですね。火の入っている穴窯を見ますと圧倒的な力を感じます。これが病みつきになるのは分かる気がします。

後半は明日公開されます。

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