【Potter:八田亨】掌から自然を形作る
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若葉が芽吹き、鮮やかな緑に木々が衣替えをする5月。
私たちはPotter八田亨様(以下、八田氏)の工房と窯場を訪れた。
八田氏の工房は大阪府下にある。
歴史的建造物が立ち並ぶ地域にあるご自宅兼工房は、モダンでありながらどこか懐かしい印象を私たちに与える。
初めて訪れたにも関わらず、このような印象を抱くのは八田氏のお人柄からだろう。
八田氏の工房は傾斜地に立つガラス張りの建物で、室内に太陽の光が燦々と降り注ぐようになっている。
屋内と屋外が同居した不思議な空間でお話をお伺いした。

八田氏は石川県出身で、大学への進学で大阪へと居を移したそうだ。
大学在学中は立体物の研究に没頭し、陶芸に限らずガラスなど様々な素材の立体物に触れていたという。
転機が訪れたのは就職活動の折。いろいろな職業を検討したが、自らの手で創り続ける仕事は何かを考えた時にPotterという職業に辿り着いたという。
活動の日々を続けて、30年近くの月日が流れたわけである。

八田氏の作品はどこまでも自然で果てしなくシンプルである。
それでありながら、作品を見れば八田氏が創られたと一目で分かる。理由は明確だ。
作品一つ一つに八田氏の理念が宿っているからである。
自然を追及する、それが八田氏の理念だ。
八田氏が轆轤を引けば、土は生き物のように動き出す。
指先の微妙な変化を感じ取り土は縦に伸び横に広がる。
生き物の成長を見ているようだ。瞬く間に土が器に変わっていく様は魔法のようであった。

窯場は工房から車で30分ほど離れた場所にある。
八田氏は穴窯という伝統的な窯を使っている。
穴窯は高温で焼き上げるため、仕上がりに独特な風合いを残す。
しかしながらこの伝統的な窯は温度の管理が難しく、薪を燃料とするために火を入れている間は目を離すこともままならない。扱いの難しいじゃじゃ馬である。
現代には電気窯やガス窯があり、これらは穴窯に比べれば比較的扱いやすい。
便利な物がある中で、あえて扱いが難しい穴窯を使うのはなぜであろうか。
答えは、火にある。
八田氏は語る。「人類の発展は常に火と共にあります。人間は火から離れられず、火に集まると思っています。私たちがこうやって今日出会えたのもこの火があったからですね。」

八田氏は穏やかなお人柄だ。
取材を快諾してくださっただけでなく、私たちに手料理まで振舞ってくださった。中国での展示が控えているにも関わらずだ。
お弟子さんたちとの会話も穏やかで、それはまるで家族のようであった。
反面、制作に関してはストイックだ。私たちは取材の中で八田氏の情熱を何度も目の当たりにした。
土や工房へのこだわりはもちろん、私たちでは気づかない細部までこだわり抜かれていた。
こういうモノを創りたい。新しい焼き物を創造したい。八田氏の中には滾る炎がある。
情熱を穏やかさに閉じ込めて、大きな炎に変えていく。穴窯そのものである。

工房でお話を伺っている最中、さわやかな風が私たちの間を通り抜けた。
外では木々が穏やかに揺れている。葉の鮮やかな緑がキラキラと光っていた。
窓の外に目をやった八田氏は私たちにこう語りかけた。「自然が一番美しいんですよ。」
正しくその通りであると思った。身近にある自然、身近にありすぎる自然。
私たちは自然の美しさを忘れてしまいがちだ。
そんな私たちに八田氏の作品は、人間は自然と共にあるということを思い起こさせてくれる。
