【漆作家・武藤久由】漆とともに生き、まだ誰も知らない漆の美しさを探し続ける
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ーーまず、漆の仕事を始めたきっかけから教えてください。
漆職人になった理由は実はすごくシンプルで、家業だったからですね。
僕の父が、仏壇のうるし塗り職人だったんですよ。
僕はその後を継いで、同じく仏壇の漆塗りの仕事をするようになりました。
父は業界では名の知れた職人だったので、僕もそれについていくのに必死の日々で。
とにかく綺麗に塗りたい、美しく仕上げたい。
ひたすら、上手くなりたいと考えていましたね。
ーーそこから、今のような作品制作に広がっていったのは?
職人になってから10年くらい経った頃ですかね。
自分なりに「ちゃんと塗れるようになってきたな」と思えたり、周りからもそう言ってもらえたりして。
その時にふと、漆そのものへの興味がどんどん湧いてきたんです。
仏壇という“仕事”としての漆じゃなくて、素材としての漆って、もっと可能性あるんじゃないかって。
それと同時に、「もっとたくさんの人に漆を知ってもらいたい」という気持ちも強くなりました。
僕にとって漆は子どもの頃からずっと身近な存在なんですけど、世間的には「高級」「百貨店にあるもの」「触れる機会がないもの」っていうイメージが強い。
だから、漆を主役にしたものづくりを始めました。

ーー改めて、漆という素材の魅力はどんなところに感じていますか?
漆って、本当に不思議な素材なんですよ。
扱いはめちゃくちゃ難しいし、失敗も多い。
正直、思い通りにならないことの方が多いんです。
でも、それが面白い。
仏壇の塗りは、ある程度「こうあるべき」という正解がある世界なんです。
でも、もっと自由な漆の表現もあるんじゃないかって思って。
それで紙に塗ってみたり、布に塗ってみたりと、いろんな素材で試していたんです。
そうすると、「こんな見え方するんだ」っていう発見がたくさんある。
まだ自分の知らない漆の美しさが、まだまだある気がしていて。
今でもずっと、それを探している感覚ですね。

ーー制作の根底にある思いは何でしょう?
漆に対する、感謝の気持ちだと思います。
父も漆で僕を育ててくれましたし、僕自身も漆で生活している。
だから、漆に対してすごく恩があるんです。
僕自身、漆が大好きなので「漆ってすごいね」って言ってもらえる存在にしたいんですよ。
恩返しみたいな気持ちですね。
そのために、今までにない漆の魅力を形にしたいと思って、ずっと作り続けています。


ーー代表作「包(つつむ)」について教えてください。
「包」は、ガラスと漆だけで作った器です。
でも、ガラスの上に漆を塗っているわけじゃないんです。
ガラスの破片があって、それを繋ぎ、支えているのが漆。
木や紙などの芯材も使っていません。
漆だけの部分と、ガラスだけの部分で構成されているんです。
ーーかなり特殊な構造ですね。
普通、漆器って木とか紙とか、何かしらの芯材があって、その上にコーティングとして漆を塗りますよね。
それがずっと引っかかってたんですよ。
「漆って、単体では成り立たないの?」って。
なんか、他の素材より弱い存在みたいに感じてしまって、漆好きとして悔しかったんです。
だから、漆だけで器を作れないかって実験を始めたのがきっかけです。
そして、試行錯誤の末にできたのが、漆だけの器。
そこからさらに発展させて、ガラスの破片を組み合わせて生まれたのが「包」です。
これはもう…偏愛ですね(笑)
漆へのものすごい愛情を持って手がけた作品です。

ーー実際に使い心地はどうですか?
それが、めちゃくちゃ良いんですよ。
口当たりがすごく柔らかくて、冷たさも硬さも感じない。
お酒を入れて飲むと、びっくりするくらい美味しく感じるんです。
これって、「包」を作らなかったら一生気づかなかった漆の魅力なんですよね。
それを自分で作り発見できたことが、本当に嬉しく思っています。

ーー海外展開にも挑戦されていますよね。
スタートが仏壇職人だったので、作品が完成した当初は最初は販路なんて全然なかったんです。
なんとか営業したり紹介して頂いたりして、なんとか手探りで国内での販売をやっていたんですが、やっぱり海外にも届けたいなって思いが強くなって。
そんな時に偶然「メゾン・エ・オブジェ」を知ったんです。
「どうせ無理だろうけど、申し込んでみよう」って軽い気持ちで応募したら、採択していただけて。
でもその当時は準備が追いつかなくて、一度辞退したんです。
で、その翌年、ちゃんとサポート体制を整えて再挑戦したところ、また選んでもらえて。
もうこれはやるしかないな、と。
資金集めのためにクラウドファンディングも立ち上げたんですが、本当にたくさんの人が支援してくださったんです。
あの時の「応援されてる感覚」は、作品を届けようという強い気持ちを後押ししてくれましたね。

ーー若い作り手に伝えたいことはありますか?
とにかく、やってみることですね。
失敗して、また作って、また失敗して。
その試行錯誤の回数を重ねた分だけ、自分の技術になると思ってます。
「失敗しそうだからやらない」と考える人も多いと思いますが、それはもったいない。
失敗って、全て経験として自分の糧になっていきます。
あとで必ず、どこかで役に立つ。
特に若い頃は、たくさん失敗した方がいいと思います。
ーー武藤さんが日頃から意識していることは?
とにかくいろんなものを見ることですね。
漆職人だったら、漆ばかり見るんじゃなくて、他の工芸や芸術など、たくさんのモノを見た方が良いと思っています。
何かを目にした時に、「なんでこれに惹かれるんだろう?」とか「これどうやって作ってるんだろう?」っていうふうに考えることも大切にしています。
作り方と自分の中に芽生える感情、その両方の視点でものを見て、自分の感性を磨くようにしています。

ーー武藤さんのこれからの目標を教えてください。
10年後も20年後も、ずっと漆を触っていたいですね。
「こうでもない、ああでもない」って言いながら、たくさん実験して失敗して、まだ誰も知らない漆の魅力を探し続けていたい。
「こんなんできた!」って、一人でニヤニヤしてるような(笑)
なので、これからもずっとモノづくりして、もっと漆の魅力を見つけて、たくさんの人に届けられたらなと思っています。
