【塗師・髙木望】千年変わらぬ技を磨き、職人として生きる。漆塗り職人が語る、愛され続ける漆器づくり
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――塗師を志したきっかけを教えていただけますか?
若い頃から、文化の担い手になれたらいいなという気持ちがずっとあったんです。それで工芸の学校に入ったのが漆との出会いでした。
工芸学校なので、学校には陶芸、竹工芸、彫刻、木工などいろいろな専攻がありましたが、その中でも漆が魅力的だと感じて。
漆って、他の工芸と比較して汎用性が高いと思ったんですよね。仏像、仏具彫刻、木工、竹工などには漆が塗られているものが多いし、ずっと必要とされ続ける素材だと思って。それで漆工科を選んだのがきっかけのひとつでしたね。

――実際に漆に携わって感じる魅力とは何でしょうか。
やっぱりしっとりとした質感とうるおいのある深みですね。他の素材にはない独特の魅力があります。
ただ、この美しさを引き出すまでにかける時間は本当に長いし、とても神経を使います。
なかでも一番神経を使うのは、最後の上塗りです。絶対に埃が入ってはいけないし、分厚く塗ると「縮み」といって表面に塗膜のしわができてしまいますし、薄く塗ると目立ってしまいます。ここは特に集中して取り組んでいます。
工程も、本当に長くて地道な作業が続きます。
例えばお椀の場合、まず木地師さんが木をロクロで削り出して作ります。そこから塗師である僕らが入り、麻布を漆で張って強度を出し、漆と地の粉や砥の粉を混ぜた下地漆を塗っては研ぎ、また塗るという工程を繰り返し強度と美しいフォルムを作り出します。
最後に刷毛で仕上げて、必要であれば蒔絵師がさんが蒔絵などの加飾を行います。乾かして固めながら進めるので、ひとつのお椀でも完成までに1年半ほどかかる場合があります。
でも、どの工程も絶対に省けない大事なものなんです。手を抜いてしまうと、完成直後はわからなくても、数十年と経ったときに問題が出てしまう場合があります。
だからこそ、この積み重ねの時間がとても大切で50年、100年後にも責任をもって仕事をしています。

――作家ではなく職人の道を選ばれた理由は?
作家さんは自分を表現する仕事だと思いますが、僕ら職人はお客様のオーダーに応える仕事です。
脚光を浴びる存在ではないかもしれませんが、漆の文化を継承していく上ではなくてはならない存在だと思っていますし、そういった仕事に魅力を感じたからです。
また、自分には作家の才能があるわけではないですし、そういう意味でも、僕に向いているのは職人だなと。なので、必然的にこの道に来たという感じですね。
ちなみに修行時代は茶道具だけを塗っていましたが、独立してからは祇園祭の山鉾や料亭で使用する飲食器、チェスの駒かやアルミ素材への漆塗り、美術品の修理など、依頼の幅も広がりました。
技法自体は千年前からあまり変わっていないのですが、塗る対象だけがどんどん変わっていて、職人としてとてもやりがいがあるし、楽しい仕事をさせてもらっているなと思っています。

――修行時代の印象的な出来事はありますか?
やっぱり師匠との出会いですね。
修行に入って1〜2ヶ月くらいの頃、いきなり100個ほどの箱を塗る仕事を任されたんですが、ほとんど失敗してしまって、垂れてしまったんです。
でも師匠は何も言わず、黙々とそれを直して、自分で塗り直して納品していたんですよ。
普通なら怒ると思うんですが、何も言わずに対応してくださって。その姿を見て、すごい器の大きい方だなと思いましたね。
尊敬できるような先輩や師匠に恵まれていたからこそ、今でも漆の仕事を続けていられるのかなと思います。

――ちなみにご自身で茶室を作られていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
自分自身が茶道をやっていること、そしてお茶道具を作っているというのが大きいですね。
茶道具や漆器の多くは茶室の空間に合うように作られているので、実際に配置して使用してみて違和感がないかを確認する、いわば実験室のような意味合いもあります。
また茶室は本来土壁ですが、漆の仕事をしているので、壁も漆にしたら面白いんじゃないかと思って。陶器や掛け軸、花もよく映えるんですよ。
また、漆は時間とともに色がゆっくり変化していくのも魅力です。
実は最近、1年振りに来た方が「こんな色でしたっけ?」と驚かれていたんです。毎日見ていると気づきにくいですが、確実に変化している。これも漆の魅力ですね。

――これからの漆の未来について、どのように考えていますか。
実は、この仕事が絶対に残るべきだとは思っていないんです。必要とされなければ自然となくなるし、それはそれでいいと思っています。
大事なのは、必要とされるものを作り続けること。
昔あった工芸でも、今はほとんど作られていないものはたくさんありますよね。でも漆は、何かに塗れるという強みがある。もしお椀が使われなくなったら、極端な話、スマホやカメラに塗ってもいいと思うんです。
そうやって時代に合わせて形を変えながら、ずっと続いていくものだと思います。
だからこそ、漆の質感や魅力をもっと発信していく必要がありますし、子どもたちのような次の世代の人たちに、本物の漆器を触ってもらう機会も大切にしています。
実際に触れてもらわないと、漆の魅力は伝わりませんからね。
でもまずは、ずっと必要とされ続けるようなものを作り続けること。これが僕たち職人にとって一番大切なことだと思っています。
