【陶芸家:山田洋次】空と山と土と火の真ん中で
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滋賀県は信楽。
言わずと知れた陶芸の街です。
この街に、イギリスの文化と日本の文化を繋ぐ陶芸家がいます。
今回ご紹介するのは、山田洋次さんです。
信楽町の北部に位置する山田さんの工房は、田んぼを抜けた先の山の麓にあります。
周囲を自然に囲まれた工房兼自宅で、お話を伺いました。

山田さんが生み出すのは「スリップウェア」と呼称される陶器です。
17世紀のイギリスで盛んに作られていたスリップウェア。
その特徴は、泥漿(液体中に鉱物などが混ざっている混合物のこと)を器の表面に塗ったり、絞ったり、削ったりして模様を描く技法にあります。
色のコントラストや線のリズムによって、器の表情が生き生きと浮かび上がります。
山田さんは20代の頃にスリップウェアに魅了され、その後独学でその技術を磨かれました。

山田さんの作品は、素地の上に様々なスリップで模様が描かれています。
線や点、格子状の模様は、作家の手の動きそのものを映すかのように、器の表面で多様なリズムを刻みます。
小さな豆皿でも、大きな平皿でも、模様は器の形に沿って自然に広がり、土が生きているような表情を見せます。
焼締めで仕上げられた作品は、釉薬を使わずとも深みのある色合いと手触りを持ちます。
火と土、そして手仕事が一体となり、器は一つひとつ異なる個性を宿すのです。
その模様や色の微妙な変化は、使う人の暮らしの中でさらに表情を変え、粘土は長く愛される器へと変化していきます。

初めてお会いした私たちにも、山田さんはありのままで向き合ってくださいました。
衒いのない言葉は、心の中にすっと溶け込み、自然と温かな時間が流れていきます。
押し付けることなくご自身の哲学や思想を語る姿に確かな答えを持たれていると感じました。
いまここで何かを問いかければ、答えが見つかるかもしれない -そんな思いさえ芽生えました。

青山緑水是我家。
空と山と土と火の真ん中で、ありのままに作られた山田さんの作品たち。
それらは生活の中で力んでいる私たちの体を優しくほぐしてくれます。
山田さんの器を手に取れば、いつでも自然の優しさを感じることができるでしょう。