【陶芸家:篠原 貴志 インタビュー前編】自然と調和して
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-----まず焼き物との出会いについてお聞かせください。-----
物心がつく前から焼き物には触れてきました。
母親が焼き物でオブジェを作っていたので、家に多くの焼き物があったのです。
母のコレクションの中には母が自ら作った物もあれば、気に入ってどこかから買ってきたものもあって、幼いながらにたくさんの焼き物に触れることができました。
日々いろんな焼き物を眺めているうちに、自分でもこういった物を作りたいというイメージが湧くようになりました。
その頃から陶芸家を目指し始めたように思います。

-----好きなものに囲まれた幼少時代だったのですね。多くの器を見てこられたと思いますが、篠原さんが考える理想の器とはどんなものですか。-----
僕にとっては、「手に取った時に作り手の思いが伝わる器」が理想です。
学生の頃に桃山時代の器に触れた経験があります。
その際に不思議な感覚になりました。
ノスタルジックな印象を受けたというか、懐かしい記憶が呼び起されたといいますか。
作者不明の器だったのですが、器から作り手の思いが伝わってくるように感じました。
400年の時を経ても物を通して思いが伝えられる。
器というものはすごいと思いましたね。
この時に自分にとっての理想の器が定まったように思います。

-----なんとも素敵なエピソードですね。では、理想の器を作るためにこだわっている点はありますか。-----
自分自身が器を作る時に楽しむようにしています。
先ほどのお話でも触れましたが、物には作った人の思いが宿ると思っています。
ですから、自分自身が楽しんでいないとお客様を感動させることはできないと思っています。
-----工房に対してのこだわりはございますか。 -----
実は、今使っている工房は何世代も陶芸家さんが使ってきた工房です。僕で4代目かな。
なので使いやすいようにはできています。
それでも自分の制作が捗るように内装はいろいろと変えています。
例えば、道具の配置や動線は自分に合わせて変えました。
あとは、光の入り方を気にしています。
様々な環境でも美しく映える器を作りたいと考えているので。

-----ずっと焼き物に触れてこられた篠原さんだからこそ、篠原さんの作品は土そのものの質感や触感を強く感じるように思えます。他にも土へのこだわりはありますか。-----
僕は土が一番重要だと考えています。
同じ土を使っているつもりでも、層の深さや採れた時期で性質が変わっていくこともあるのです。
なので、常に土の表情を確認しています。
今は完成イメージから逆算して、5~6種類の土をブレンドしながら制作しています。
メインは赤いざらざらした土を使っています。
それに鉄分の含まれた土を加えたり、時には土を叩いて目を細かくすることもあります。
理想の表現ができるように日々調整をしています。

-----土は本当に奥深いですね。制作のインスピレーションはどこから来るのでしょうか。 -----
自然からインスピレーションを受けることが多いです。
毎日焼き物のことは考えながら自然を観察しています。
形や色だけでなく、自然の持つ空気感も表現できれば良いなと思っています。
時代を超えて愛された器をいくつか見ていますが、そのどれにも独特の空気感があるのです。
その空気感はおそらく時間をかけて自然と調和していったから纏っているのだと思います。
人が作った物でも時間と共に自然と調和するようなものになるんだなと思いました。
この空気感をうまく表現したいですね。

-----今回三島の茶碗をご作成いただきましたが、三島を作ろうと思われた経緯はありますか。 -----
率直に言うと自分らしいものを作りたくなったからです。
今までは、いろんな人や様々な環境で受け入れられるものを作ろうと制作をしてきました。
そんな中で、ふと自分の個性をちゃんと表現できるものを作りたくなりました。
自分が好きな三島の茶碗で自分らしさを表現しようというのが挑戦のきっかけです。
後半は明日公開されます。
