【西陣織:西陣まいづる インタビュー後編】織物で伝えること
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-----仕事の喜びと苦悩はどんなときに感じますか。
やはり一番の喜びは、お客様が弊社の帯を締めて笑顔を見せてくださる瞬間です。
これに勝るものはないですね。
苦悩についてももちろんあります。
現実問題として、商品が思ったように売れなかったり、制作で行き詰ることもあります。
私は様々な困難にあっても、希望を持ち続けることを大事にしています。
大変だと思い始めるとあらゆることが大変に思えてくるのです。
ですので、発想を切り替えて「楽しんでやるしかない」という気持ちで困難に立ち向かうわけです。
先人たちが多くの苦難を乗り越えてきた歴史を私は知っているので、私たちも乗り越えられる。
次は私たちの番だと思っています。

-----業界の未来についてはどう考えていますか?
おそらく先染め織物の世界にはもう新規参入はないでしょう。
設備も必要ですが、やはり技術の蓄積が必要ですから。それに加えて、市場の縮小や織り手の減少の問題もあります。
一時期のことを思えば今は冬の時代とも言えるかもしれません。
それでも先人たちが困難を乗り越えてきたのだから私たちも乗り越えられると信じています。
最近の取り組みとしては、もっと織物を身近に感じてもらうような努力をしています。
近隣の小学校と協力して制作過程を見学してもらったり、海外の方向けの工房ツアーも行っています。

-----舞鶴さんは5代目に当たられるわけですが、受け継ぐということに葛藤のようなものはありましたか。
学生の頃は実家を継ぐ気はなかったです。
自分の人生は自分で決めるという感じでした。
最初の就職先も同じ業界ではありますが、別の会社様でした。
ある時父が病気で入院をして、その時見舞いに帰って来たのですが、社会人経験を経て家業の見え方が大きく変わりました。
両親がどれほどの努力をして私を育ててくれたのか、従業員がどれほど会社のために尽くしてくれているのかにこういったことに気が付いたのです。
その時、会社を継ぐ覚悟が芽生えました。

-----お話を伺う中で会社を継ぐだけでなく、伝統を受け継ぐという思いも感じるのですが、伝統というものについてのお考えはありますか。
日本のアイデンティティは良くも悪くも「調和」だと思います。
周囲との関わりを大事にすること、相手を思いやること。
それこそが日本文化の本質でしょう。
こういった文化の中で培われてきたのが和装だと思います。
私は和装という形だけを残してもあまり意味がないと思っています。
本質的な部分をしっかり伝えることが重要です。
文化の歴史や西陣織の歴史の中では私たちは通過点にすぎません。
文化をどう次に繋げていくか。
それも本質をしっかり伝えたうえでです。
私たちは織物を通じてその精神を表現しているつもりです。

-----今後の挑戦についてお聞かせください。
和装の枠を超えた取り組みに挑戦しています。
織物で名刺やバッグを作ったり、いろいろなアイデアを試しています。
私が不安に感じているのは、織物が博物館に展示されるものになることです。
展示されるのが嫌という話ではなく、織物が過去のものになってしまうのが怖いのです。
織物というものは身に着けていただいている時が、一番輝くと知っていますから。
先ほど申し上げた、若い方や海外の方に伝えるという取り組みもこの挑戦の一環です。
織物の魅力をちゃんと伝えれば、和装の枠を超えて様々な生活様式に馴染んでいくと思います。

-----舞鶴さんの持つ受け継ぐことへの覚悟と意志が、私たちの中にも伝播してゆくような貴重な時間でした。
こうやって、思いというものが繋がっていくのだと実感できるインタビューだったと感じています。-----