【陶芸家:中尾浩揮インタビュー前編】飛び込むことで広がった世界
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── 陶芸を志したきっかけを教えてください。
幼いころからモノづくりが好きで絵を描いたり立体物を作ったりして遊んでいました。
そんな背景から高校で陶芸部に入ったのです。
それが陶芸との出会いです。
当時はオブジェを作っていました。
作ることは楽しかったのですが、この時はまさか自分が陶芸家になるなんて思ってもみませんでした。
大学では文学や演劇を学んでいました。
その間は陶芸からは少し離れていていましたね。
就職のタイミングで“演劇か陶芸か”で迷い、やっぱりモノづくりがしたいと最終的に陶芸を選びました。
ちょうど信楽の工房で求人があって、運よく働くことができたのです。
その工房は食器が中心で、そこで“器をつくる楽しさ”に気づきました。
その後、信楽の窯業試験場で本格的に陶芸の勉強をしました。
卒業後、就職先を探したのですが、当時はあまり枠がなかったこともあって、気づけばそのまま作家になっていましたね(笑)

── 理想の器とは、どんな器ですか?
見た時に美しいのはもちろんですが、料理が乗った瞬間にさらに美しくなる器が理想です。
器は用途があるものだと思うので、何かが盛られて使われて初めて完成するような印象です。
あとは、使うことで気分が上がったり、人にエネルギーを与えられるような、そんな器をつくりたいと思っています。
── 信楽に工房を構えた理由はありますか?
思い入れのある信楽で作陶をしたいと考えていて、しばらく窯と作業場がある物件を探していました。
ある時偶然この物件を見つけました。
自然に囲まれていて、とても落ち着く場所です。
穏やかな気持ちで制作に望めるので気に入っています。

── 制作を支えている土についてもお聞かせください。
信頼している信楽の粘土屋さんに土をブレンドしてもらっています。
僕が使っている釉薬はとても独特で、普通の土だと釉薬に土が負けてしまうのです。
なので、自分の表現をしっかり支えてくれる土を開発してもらいました。
まさに“土のエキスパート”で、いつも助けられています。

── 色のひらめきはどこから生まれるのでしょうか?
太陽の光が照らすもの全て。あらゆるものがヒントになります。
他の作家さんの器からインスピレーションを受けることもありますし、漆芸、ケーキ、和菓子……本当にさまざまなところから。
作りながらイメージを描いていくタイプなのですが、自然を表現するのが一つのテーマです。
作品で使っている色も様々なイメージを反映しています。
青は僕にとって地球の色で、黄色は太陽や光、そして人の可能性を表現しています。

── 独特な色の重なりはどのように生まれているのですか?
白い釉薬をベースに、その上から黄色、緑、青を重ねています。
白と色が重なった部分で、独特な揺らぎが生まれるのです。
単体では安定しない釉薬で昔はだいぶ苦労もしました。
ある時ふと”重ね掛け”のアイデアを思いついて、それから安定して作れるようになりました。
今では僕の作風を代表するモノになっています。

後編は明日公開されます。