【陶芸家:中尾浩揮インタビュー後編】偶然さえも必然に
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── 中尾さんにとって釉薬はやはり特別な存在ですか?
そうですね。
僕は手が早いタイプではないので、別の武器が必要だと思いました。
スピードでは勝負できないなら、釉薬で戦おうと。
窯業試験場でも釉薬の勉強はとくに熱心にしていましたし、たくさんの研究や試験もしました。
この判断があって今の作風にたどり着いたので、こだわってよかったと思っています。

── 作品づくりの喜びはどこにありますか?
窯出しの瞬間ですね。
ある程度完成のイメージはありますが、それが“ぴったり”合っていると、すごく気持ちがいい。
もちろん未だに失敗もあります。
昔は釉薬が上手く扱えず、1/3成功すれば良い方という時期もありました。
なので窯出しはドキドキしますが、やっぱりワクワクの方が強いかな(笑)

── 制作の難しさを感じる瞬間はありますか?
全部難しいです。
釉薬は今でも難しい部分がありますし、焼く前の窯詰めが本当に苦手で誰か変わってほしいと思う時もあります。
基本的に不器用なので(笑)
── 自然と対峙する感覚はありますか?
僕は電気窯なので“火の神様にお願い”という感じではないですが、それでも予想外のことは起きます。
そういうコントロールできない部分も私は大切にしたいと思っています。
目に見えないもの、言葉にできないもの、それって自然のエネルギーだと思うのです。
こういったエネルギーがあるからこそ、思いがけない作品が出来上がる。
だから、難しいと感じることもありますが、自然へは常に感謝しています。

── 作風の変化についても教えてください。
高校時代は、器ではなくオブジェを作っていました。
社会人になってからは、最初は民藝調のモノを作っていて、その次は端正な印象のモノを作っていました。
今は自然や日本の文化を大切にしながら作っています。
以前は“自分のためにつくる”感覚が強かったのですが、最近は周囲や環境を元気にしたいと思うことが増えました。
自分の器で誰かが元気になってくれたら嬉しいです。

── いまでもオブジェを作りたいと思うことはありますか?
今は全くないですね。
高校の時はオブジェへのアイデアが溢れていて、本当にたくさん作りました。
今は食器が楽しいのでそこに力やアイデアを集中している感じです。
私は作りたいモノしか作れないという性質で、イメージが湧かないと作れないのです。
でも、いつか何か思いつけば、挑戦したい気持ちはあります。
少し表現が難しいのですが、私のモノづくりには“思し召し”というか、“必然”のようなものがあって。
その時々の巡り合わせで、できるものを作っている感覚があります。
今は食器を作るべき時で、時間が経てば別の何かが見つかるように思います。

── 今後の挑戦を教えてください。
原土での制作にもっと挑戦したいと思っています。
今も少しずつ取り組んでいますが、もっと広げていきたいですね。
あとは、もっと多くの人に自分の作品に触れてもらいたいです。
少しでも多くの人に器を通してエネルギーを届けることがこれからの挑戦です。

信楽の自然に囲まれた静かな工房で、美しい色が混じりあった器を生み出す中尾さん。
偶然と必然が入り混じった中尾さんの陶芸家としての歩みが、そのまま作品に映し出されているように感じました。
今回の取材も必然だったのではないか、そんなことを考えさせられたひと時でした。