【陶芸家:中尾浩揮】混ざり合う色彩、生まれる世界

【陶芸家:中尾浩揮】混ざり合う色彩、生まれる世界

滋賀県・信楽。

日本を代表する陶芸の街で、独自の色彩世界を紡ぐ陶芸家がいます。

今回ご紹介するのは、中尾浩揮さんです。

中尾さんが生み出す作品は、独創的な色彩と日常に寄り添うかたちが調和し、どこか印象派絵画のような柔らかさと奥行きを湛えています。

中尾さんと出会ったのは、信楽の陶器市でした。

朝から多くの人で賑わう会場の中でも、中尾さんのブースはひときわ人の輪が絶えず、多くの方を惹きつけていました。

一人ひとりに丁寧に作品の説明をされる姿がとても印象的で、作品について尋ねると「ここにこだわりました」と穏やかに語ってくださいました。

制作の背景や色が生まれる瞬間を話すときにふっと浮かぶ笑みを見て、もっとお話を伺ってみたいと感じたのを覚えています。

中尾さんの作品を手に取ると、まず色彩がふわりと心に広がります。

淡いイエロー、柔らかなブルー、滲むように溶け合うグラデーション。

そして、その柔らかな表情を引き締める深い色たち。

器が光の粒子をそっと留めているような、華やかさと素朴さが同居する不思議な魅力があります。

これらの釉薬は、試行錯誤を何度も重ねて辿り着いた結晶だそうです。

積み重ねたトライアンドエラーの数だけ、作品に深みが宿っていくのでしょう。

その色彩が生まれる工房は、信楽の街から少し離れた山あいにあります。

自然に包まれ、耳を澄ませば虫の声が届くほど静かな環境です。

和風の一軒家を改装したその工房はどこか懐かしい佇まいで、ここからあのモダンで独創的な作品が生まれるのかと驚かされます。

制作を支える大切な存在が「土」です。

中尾さんが信頼を寄せる粘土店「山中陶土」さんは、信楽の陶芸家たちを長年支え続けてきた老舗で、依頼に応じて土のブレンドや開発を行う“土のエキスパート”です。

中尾さんもここで土のブレンドを依頼されており、作品の骨格となる土と真摯に向き合い、時に寄り添い、時に新たな発見を得ながら、自身の世界観を形作っています。

信楽の豊かな自然の中で磨かれた感性と、幾度もの試作を経て辿り着いた色彩が重なり合い、中尾さんの器は生まれます。

それは、生活に優しく寄り添うと同時に、使う人にそっとエネルギーを与えてくれる存在です。

まるで風景の一部を切り取ったように心に残る器の背景には、ものづくりに誠実に向き合い続ける中尾さんの心が映されています。

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