【陶芸家:十場あすかインタビュー前編】循環する制作
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—— 陶芸との出会いを教えてください。
母が器が好きだったので、物心ついた時から素敵な器に囲まれて生活していました。
家には母のコレクションがたくさんあって、いつも触って、使って、大切にする環境でしたね。
だから器という物はすごく身近な存在でした。
ただ、この頃はまだ陶芸の道に進むなんて思ってもいなかったです。
大学に進学したのですが、学びを進めるうちに自分が本当にしたいことは何だろうという思いが芽生えました。
その思いから自分の中で折り合いがつかなくなってしまったのです。
ちょうどその頃、友達からモノづくりの魅力を聞く機会があって、すごく興味が湧きました。
決定的だったのは、河井寛次郎さんの展覧会を見たこと。
日常の器から大きな作品まで生み出すことができる。
陶芸の世界は自由なんだと驚くと同時に、この世界に進みたいと思うようになりました。

—— 陶芸の道は必然だったと思いますか?
うーん、正直よくわからないんですね(笑)
器にはずっと興味があって、図書館で本を借りて勉強していた時期もあったけれど、「陶芸家になろう」と明確に決めていたわけではなくて。
ただ、同じ工芸の世界でも、木工みたいにミリ単位で精度が問われる世界は、自分には向かないと思っていました。
細かい数字はあまり得意ではなくて(笑)
初めて土に触れた瞬間に、その感触や形ができていく過程の中で、「これだな」と思いました。
様々な素材があるけれど、私と相性が良いのは土なんだと感じた瞬間です。

—— 理想の器とはどんなものですか?
その人の生活に自然と馴染んで、使われた痕跡が残るもの。
作り手の想いだけで完結せず、使う人の時間や感情が宿っていく器が美しいと思っています。
具体的な造形の話をすると、美しく整ったものよりちょっと雑味があるもののほうが好みなのです。
だから、作品は作り込み過ぎないようにしています。
作品それぞれの表情が残るような制作をしています。

—— 陶芸の魅力についてどのようにお考えですか?
陶芸は、暮らしの循環の中に仕事が自然と溶け込んでいるところが魅力だと思います。
うちでは家族で育てた稲の藁を使って灰をつくり、その灰で作品を焼くこともあります。
自分たちで食べ物を育てて、残った物は作品に活かして、暮らしと制作が共鳴して循環する。
その循環をそのまま器に取り込めるのは、陶芸ならではだと思っています。

※ご自宅のお庭。鶏を飼われています。
—— 工房の環境についてもぜひ。
もともと自宅だった場所をそのまま工房にしているんです。
次の工房が見つかるまでと思っていたのですが、すっかり馴染んでしまいました。
轆轤を置いているこの場所も実は家族で食事をしていた空間です。
当たり前にある場所なので、特別なこだわりや魅力といえるものは少ないんですけど…
窓からの景色は本当に気に入っています。
自然の中で作っていると心が落ち着くし、四季の移ろいを日々感じることができます。
葉っぱ1枚でも本当に感動する瞬間があるのです。
そういう環境に制作が助けられている部分もありますね。

—— 土に触れている時はどのようなことを考えておられますか?
作業している時は目の前のことに集中しているので、無心で制作している感覚があります。
制作を通して意識していることは、土を無駄にしないことです。
土は一度でも焼いてしまうともう戻せないのです。
土も無限にあるわけではないですから、一つひとつを大切にしたいです。
限りある素材を扱うからこそ、作品としっかり向き合おうと思えます。

※制作を支える土
後編は明日公開されます。