【陶芸家:十場あすかインタビュー後編】愛情の痕跡
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—— ひらめきはどんな時に訪れるのでしょう?
リラックスしている時が多いですね。
マッサージを受けている時や、電車に乗っている時…
仕事から少し離れている瞬間に、ふっとアイデアが浮かんできます。
思いついたらメモをして、自分の中にためておくんです。
轆轤の前に座ると目の前の作業に集中してしまうので、制作前に“作戦”をしっかり練るタイプです。

—— ご夫婦ともに作家活動をされていますが、お互いの影響は?
ほとんどないですね(笑)
作っているものも全然違うし、あまり詳しくは知りません。
この土が良かったとか技術的な話をする程度。
お互い干渉しないので、同じ会社にいる別ジャンルの人みたいな距離感です。
窯の取り合いになることは、たまにあります(笑)

—— 子育てもしながらの制作ですが、バランスはとれていますか?
いまはだいぶ両立できるようになりました。
子どもが大きくなったので、以前ほど手はかかりません。
家事は分担して、家族みんなでバランスを取っています。
子どもが生まれてからは生活が大きく変わりましたね。
料理をたくさんするようにもなって、使い手としての視点が広がりましたね。
他の作家さんの作品を見ても、「この人はこういう意図で作ったんだな」と、前より理解できるようになりました。
この視点は現在のモノづくりでも活きています。

※ご家族で暮らすお宅のかやぶき屋根
—— 特に気に入っている作品はありますか?
全部同じ熱量で作っているので、全部好きです。
今まで作ってきた作品にはすべて思い入れがあります。
ただ、薪窯で焼き始めたのが大きな転機になりました。
炎の美しさに惹かれて…コントロールできないものって楽しいのです。
炎との関係は難しいけれど、だからこそ続けてこられたように思います。
窯焚きは体力的にもしんどいけれど、窯出しで想定を超えるものが生まれる瞬間は本当に嬉しい。
いつもテストピースを入れて、新しい可能性を探っています。

※制作を支える穴窯
—— 制作の中で喜びを感じる習慣はありますか?
作品が使われているところを見るのはとても嬉しいです。
あと、作品がお直しで戻ってくるのも好きです。
うちは金継ぎでのお直しを承っているのですが、届いた器を見るとその人がどんなふうに使ってきたか、大切に使われていた痕跡が一目で分かります。
それを見るのがたまらなく嬉しくて。
やっぱり、器は使われて完成するものだと改めて感じます。

—— 陶芸を志す方に魅力を伝えていただけますか?
陶芸は本当に楽しいですよ。
自分で考えて、それを実行して、すべての工程を自分で決められる。
この自由度の高さが陶芸の一番の魅力だと思います。
1から10まで、自分で責任を持って進められるのは陶芸ならではだと思います。
—— 今後の目標を教えてください。
おばあちゃんになっても作っていたいです(笑)
ずっと、ずっと作り続けたい。それが今の一番の願いです。

十場あすかさんの工房には、優しい光が満ちていました。
これも彼女の人柄故でしょう。
丁寧に言葉を選ぶ姿から、器に宿るやわらかな気配の理由が垣間見えます。
作品と人、そのつながりを感じた取材でした。