【陶芸家:奥田章インタビュー後編】前へ、前へ
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—— 白と黒を基調とした作品が多い印象です。
器は料理を引き立てるための道具だと考えています。
だから、あまり主張しすぎない方がいい。
カラフルな食材が映えるように、できるだけシンプルな器を作りたいと思っています。
あと、僕は信楽焼の魅力は土にあると思っています。
なので、土の個性をしっかりと残すことも信楽焼の窯元として意識しています。
土は大別すると白か黒かで、色で主張しすぎない方が、素材の良さが素直に出ると感じています。

—— 制作の中で、ひらめきはどんな時に訪れますか。
日々いろいろなものから影響を受けて、それをすぐ形にするというより、自分の中に溜めています。
熟成されて、不意に出てくる感じですね。
不思議なことに、完成する瞬間は寝ている時が多いです。
夢の中で出来上がるのです。ずっと考えているけれど、頭を休めた時に答えが現れる感覚があります。

—— 制作がうまくいかない時は、どう向き合っていますか。
焼き物は、思い通りにいかないことの方が圧倒的に多いです。
そもそも100点満点は出ない世界だと思っています。
だから失敗を避けるのではなく、失敗を重ねて道筋を探す。
もちろんうまく行くと嬉しいですが、実は失敗する方が学びは多いのですよ。
—— 陶芸家としての喜びはどんな瞬間にありますか。
辛い瞬間は、実はあまりないです。
それよりも、お客さんから「良かった」「買い足しました」と言ってもらえることが何よりうれしい。
SNSの良い点は離れていてもこういったリアクションを受け取れることですね。
お客さんの声が大きな原動力になっています。

—— これからの挑戦について教えてください。
ありがたいことに、家庭やレストランで多くの方に使っていただいています。
これからもより多くの人に自分の作品を届けたい、そう考えています。
SNSの発達で世界がどんどん近くなっているので、これからは世界中の皆さんに僕の作品に触れてもらいたいです。

—— 若い陶芸家へのメッセージをお願いします。
伝統工芸の世界は、不安が多いと思います。自分の作品が認めてもらえるのか、ちゃんと生活していけるのか。
特に、身近に陶芸がなかった人ほど、不安は大きいのではないでしょうか。
でも、しっかり学んで技術を身につければ、その不安は少しずつ薄れていきます。
技術は裏切らないですし、積み重ねた分だけ自分を支えてくれます。
実際に僕の工房で経験を積んだ人たちも、今では陶芸の世界でそれぞれ活躍しています。
職人の世界は近道がなくて、結局は続けるしかない。
失敗しても諦めず、挑戦し続ける精神力が一番大切だと思います。

—— 信楽作家市という大きなイベントを企画されていますがどういった経緯があったのですか?
信楽を盛り上げたいという思いで友人たちと始めた小さなイベントでしたが、今では毎年、信楽の人口を超えるほどの人が集まるイベントになりました。
いいものが欲しい、いいものと出会いたい。
そう思っているお客さんに、きちんと価値のある作品を届けたいという気持ちがあります。
なので、ただ人を集めるのではなく、作品の価値をしっかり見せることを大切にしています。
適当な販売はしない。
作品の背景や想いをきちんと伝える。それが作り手の生活を安定させ、次の制作につながっていくと思うからです。
正直言うと自分の仕事もある中で、イベントの運営を行うというのはしんどい時もあります。
それでも、前へ、前へ進んでいく。
いつか僕たちが積み重ねたものが、信楽という土地の未来につながっていけばうれしいですね。

作家として、職人として、そして経営者やイベントの主催者として。
いくつもの顔を持ちながら、奥田章さんは立ち止まることなく前へ進み続けています。
その姿勢の根底にあるのは、器を通して誰かの日常を少しでも豊かにし、笑顔を生み出したいという真っ直ぐな思いでした。
土と向き合う静かな時間と、人とつながる賑やかな場。
その両方を大切にする奥田さんの歩みが、信楽のこれからをより明るいものにしていくのだと感じました。