【陶芸家:安藤由香】色と形、その先にあるもの
Share
丹波篠山を訪れた日は、雪がちらつくほど冷え込んでいました。
山あいの空気は澄みきり、足音さえ遠くへ吸い込まれていくようです。
そんな冬の日に、陶芸家・安藤由香さんの工房兼自宅を訪ねました。

ご主人の設計によってリノベーションされた建物は、光をたっぷりと取り込む現代的な佇まいを持ちながら、昔ながらの和風建築の記憶を随所にとどめています。
新しさと古さは対立することなく、同じ空間の中で自然に混ざり合っていました。
制作の場であり、生活の場でもあるこの建物には、気負いなく人を迎え入れる懐の深さがあります。

撮影に入る前、安藤さんはお茶でもてなしてくれました。
湯気の立つ湯のみを前に、制作のことから日々の暮らしまで、話題は自然と広がっていきます。
話し上手で朗らか、その場の空気を和ませる方ですが、言葉の一つひとつには無駄がありません。
初対面の緊張も、気づけばすっとほどけていました。
制作への向き合い方や自身の内面について語る場面では、言葉を慎重に選びながらも、終始はっきりとした口調が印象に残ります。
過去に感じた迷いや弱さについても包み隠すことなく語るその姿勢からは、自分自身から目を逸らさない強さが感じられました。
朗らかさの奥に、確かな厳しさを備えた方なのだと思います。

工房の棚に並ぶ作品にまず目を引かれるのは、凛としたシェイプや美しいシルエットです。
どれも無理のない佇まいでありながら、確かな存在感を放っています。
研ぎ澄まされた造形からは、これまでの制作の中で積み重ねられてきた経験と試行錯誤の跡が感じ取れました。
そこに重ねられるのが、優しく奥行きのある色彩です。
一色で完結することはなく、淡い色のグラデーションが幾層にも重なり、豊かな表情を生み出しています。
見る角度や光の入り方によって印象が変わり、器でありながらどこか絵画的な余韻を残します。
霧や光を描いたターナーの風景画を思い起こさせる瞬間がありました。

制作について尋ねると、安藤さんは、色や形を感覚だけで決めることはほとんどないと話してくださいました。
試し、考え、積み重ねていく。
そのプロセスを何度も繰り返した先に、作品はかたちになります。
そして完成したあとでふと、過去に見た美しい景色が作品の中に映り込んでいることに気づくのだそうです。
旅先で目にした空の色、刻々と変わる光の移ろい、心に残った風景。
それらは記憶として蓄えられ、時間を経て、意図せず作品の中に立ち現れてくる。
その語り口からは、色彩と真摯に向き合い続ける研究者のような誠実さと集中力が伝わってきました。

安藤さんの作品には、確かなエネルギーがあります。
ただし、それは見る者に迫るような強さではありません。
形を突き詰め、色を探り続ける中で、自然と宿っていくものです。
妥協なく語られる言葉と、この場所に満ちていた引き締まった空気は、その制作姿勢と深く結びついているように思えました。

工房を後にすると、寒さは訪れたときよりも一段と厳しくなっていました。
それでも、心の奥には不思議な温かさが残っています。
朗らかな人柄と、内に秘めた確かな力、そして作品に宿るエネルギー。
そのすべてから受け取ったものが、冷たい空気の中でも私たちを内側から温めてくれているように感じられたのです。