【陶芸家:榎並伸太郎】生活の延長にある工房から
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信楽の住宅街の中。
現代的な一軒家が立ち並ぶ一角に、子どもたちの笑い声が聞こえてくるお宅があります。
その裏手に回ると、少し意外な場所に小さな小屋が現れます。
ここは、陶芸家・榎並伸太郎さんの現在のご自宅兼工房です。

工房の扉を開けると、外の気配がすっと遮られ、空気の密度が変わるのを感じます。
大きな音はなく、聞こえてくるのは、ろくろの低い回転音と、土に触れる微かな擦過音だけ。
窓の外には緑が広がり、時間帯によっては、夕焼けがやわらかく工房の中へ差し込みます。
整理された工房は、どこか秘密基地のようで不思議と落ち着く空間です。

※工房の一角
棚に並ぶ器は、白やベージュを基調とした静かな表情をしています。
余計な装飾はなく、輪郭はあくまで端正。
それでいて、近づいてよく見ると、模様のうねりや陰影が重なり合い、彫刻のような奥行きを感じさせます。
形は凛としているのに、どこか柔らかさがあり、気品をまといながらも重たい印象はありません。

不思議なのは、これほど確かな存在感を持ちながら、どんな料理とも調和することです。
どんな人が手に取っても、自然と寄り添う余白が残されている。
日常の食卓にも、少し特別な食事の場にも、無理なく馴染んでいく器です。

榎並さんは、制作中は多くを語りません。
黙々と手を動かし、土と向き合い続ける姿からは、集中力の高さと、この場所が日常の延長にあることが自然と伝わってきます。
生活のすぐそばに工房があることで、制作は特別な時間ではなく、暮らしのリズムの一部として流れているように感じられました。

現在、この工房は仮の姿でもあります。
ご自宅から車で10分ほどの場所に、新たな工房を構えられています。
昔ながらの和風建築の住宅を工房として使えるよう、現在は義理のお父様と二人で改装を進めている最中です。
作業スペースを広くし、将来的にはギャラリーも併設したいと語ってくださいました。
ただ器を作る場所ではなく、人が集い、器を手に取り、会話が生まれるような場にしたい。
その視線は、すでに「次の風景」へと向いています。

目指しているのは、地域に根差した工房。
観光地としてではなく、暮らしの延長として人が立ち寄れる場所。
器が生まれる背景ごと感じてもらえる場所。
榎並さんの器が持つ、開かれた佇まいは、そうした場の在り方とも深く重なっています。
夕暮れが工房を包み、窓の外の緑が影を落とす頃、今日の制作は終わりを迎えます。
榎並さんのご厚意で最後はご家族とご一緒にお食事をいただきました。
器はもちろん榎並さんの物。いただいた親子丼はどこか懐かしく、我々を穏やかな心持ちにしてくれました。
食卓で流れた穏やかな時間は、器が纏っている空気そのもの。
この生活が榎並さんの制作の原動力であると感じさせられたひとときでした。
