【陶芸家:馬川祐輔インタビュー前編】ゆっくり考えを宿していく
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――まず、陶芸との出会いから教えてください。
父が陶芸家だったので、家のすぐ隣に工房がありました。
子どもの頃には友達と一緒に工房で遊んだこともありました。
土をこねたり、粘土で小さな人形を作ったりしましたね。
ほんとに時々ですが。
モノづくりは子供のころから好きで、大学進学の際になんとなくやってみようという気持ちになりました。
でも、どこか気恥ずかしくて親には言えなかったんです(笑)
大学で陶芸を学ぼうと考え、美術学校に通いたいと両親に相談した時の驚いた表情は今でもよく覚えています。

――モノづくりができる環境にあったということが大きな影響になったのですね。
そうですね。
僕自身も物を作るということが好きだったということに加えて、身近で物を作っている父の存在があったことは大きな影響を与えていると思います。
ただ作っているものは違っていて、父の作品はどちらかと言えばシンプルで綺麗なラインのシックなものが多いです。
僕はどちらかと言うと自分らしくて新しいものの表現を模索している節がありますね。

――馬川さんにとって、理想の器とはどんなものですか?
僕にとっては、“自分の表現を内包できるかどうか”が一番大事です。
だから、“人のための器”というより、“自分のための表現としての器”なのです。
思いを詰め込むという点で考えれば、器とオブジェの違いは実はあまりないと思っています。
器の形を借りながら、自分の内側にあるものを閉じ込めていく――そういう感覚です。

※過去に制作されたオブジェ
――制作のテーマにはどんなものがありますか?
テーマはその時々で変わります。
昔は“植物”や“自然”が多かったけれど、最近は“人”がテーマです。
僕、あまり社交的なタイプではないので(笑)、人が何を考えているのか不思議なのです。
だから作品の中に顔を描いたり、人の形を取り入れたりしています。
人を描く時はその表情を意識しています。
目の形や口の形を少し変えるだけで表情がガラッと変わるのです。
笑ったり、怒ったり、何も考えていないような顔もあります。
こうやって制作をしているうちに人とは何かという問いへの答えが見つかる気がしています。

※さまざまな表情があるカップ
――制作スタイルについても教えてください。手びねりにこだわっておられるとか。
はい。轆轤(ろくろ)は使わず、すべて手びねり(手やへらで形作る制作方法)です。
轆轤だとスピードが速くて、自分のリズムに合わないんですよね。
手びねりは時間がかかりますが、ゆっくりと形を積み上げていくことで、思考が作品に染み込んでいくような気がしています。
“形ができるスピード”と“考えが深まるスピード”が、ちょうど一致する感じが好きなんです。

――使う“土”にも特徴がありますよね。
そうですね。荒くて武骨な土を好んで使っています。
焼き上がったときに表情が出やすいんです。
僕の作品は色が多くてポップな印象があるので、土まできれいすぎると“おもちゃっぽく”なってしまうと思います。
粗い土とポップな絵付けという一見“アンバランス”な表現が、むしろちょうどいい“バランス”を生むんですよ。

――影響を受けた作家やアーティストはいますか?
フンデルト・ヴァッサー、岡本太郎、そして宮崎駿。
この三人には大きく影響を受けています。
彼らって共通して、“自然の中で人間がどう生きているか”をテーマにしていると思うんです。
僕自身もそこにすごく共感していて、作品づくりの根底にはその考えがずっとあります。
後半は明日公開されます。