【陶芸家:高橋燎インタビュー前編】土に触れて、流れ出したもの

【陶芸家:高橋燎インタビュー前編】土に触れて、流れ出したもの

—— 陶芸との出会いについて教えてください。

幼い頃は、特別に土に触れるような環境ではなかったんです。

大学に進学してサークルを探している中で、偶然陶芸サークルの体験に行きました。

そこで土に触れた瞬間、不思議な感覚がありました。

自分の中に溜まっていたものが、すっと流れていくような感じです。

それまで、どこかエネルギーがうまく循環していない感覚があって。

その滞りが、土に触れたことでほどけた気がしました。

—— 陶芸を続けたいと思ったのは、いつ頃だったのでしょうか。

二十歳くらいの頃には、もう陶芸を仕事にしたいと感じていました。

ただ、どうすればなれるのかは分からなかったし、具体的な行動もできていなかったです。

普通に就職する未来もあまりイメージできなくて、卒業後はしばらくフリーターをしていました。

それでも、陶芸をやりたい気持ちだけは消えなかったですね。

—— 転機になった出来事はありましたか。

とあるギャラリーで、篠原希さんの展示を見たことです。

その時に、「やっぱり自分は作りたい」とはっきり思いました。

土を触っていない間も自分の心は前に進んでいたのだと思います。

帰ってすぐに家庭用の電気窯を買って、仕事が終わると家で制作する生活が始まりました。

今思えば、勢いだけでしたけど(笑)。

—— 理想の器とは、どのようなものですか。

作り手が、完成の照準をきちんと把握している器だと思います。

たとえば茶碗や花器は、何かが入って初めて完成するものですよね。

その用途にしっかり応えられているかどうか。そこが大事です。

使う、見るといったさまざまな用途の中で、作り手は器をどこに持っていきたいのか。

どのタイミングで完成とするのか。

その点を意識して制作された器が私にとっての理想です。

※工房の一角

—— 制作に向かう姿勢は、学生時代と変わりましたか。

かなり変わりました。

学生の頃は、あまり考えずに轆轤に向かっていましたが、今はある程度完成形を思い描いてから作ります。

ただ、イメージは湧いても、実際に形にできるかは別の話です。

日々、研究しながら理想に近づけている感覚ですね。

—— 土についての考え方を教えてください。

信楽の粘土屋さんから土を取っていますが、大量生産されたものであまり特別な土という感じではありません。

こだわりがないわけではなくて、今は焼成時の不確定要素をできるだけ減らしたいと考えているので、性質が安定した土をあえて使っています。

形や釉薬、火に集中できるように、土は信頼できるものを選ぶ。そういう考え方です。

後編は明日公開されます。

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