【陶芸家:高橋燎インタビュー後編】矛盾を受け入れる

【陶芸家:高橋燎インタビュー後編】矛盾を受け入れる

—— 使用されている窯について教えてください。

アメリカで考えられたトレインキルンという窯を使っています。

穴窯よりも温度管理がしやすく、地面に直接接していないので外部からの影響も受けにくい点が大きな特徴です。

一言で言えば、再現性が高い窯と言えると思います。

今は土や釉薬、そして炎というものを突き詰めていきたいタイミングなので、外的要因を減らせるこの窯は自分に合っていると思います。

※トレインキルンの様子

—— 焼きの工程が一番好きだと伺いました。

そうですね。

炎というエネルギーの高いものと向き合っている瞬間は、とても楽しいです。

窯焚きの際に注意しているのは、数値を追いかけ過ぎないこと。

窯には温度計が付いているので内部の状況はある程度把握できますし、過去のデータも参考にします。

ただ、最後に判断するのは自分の目です。

※窯の内部の様子

—— 火と向き合うことに、不安はありませんか。

今は楽しいです。

想定と違う焼け方をすることもありますが、それも結果の一つ。

なぜこうなったのか、どうすれば理想の表現になるのか、焼くたびに検証を繰り返しています。

どんな結果も学びになるので、あまり不安に思うことはないですね。

※積み上げられた薪

—— トルコブルーが印象的ですが、青へのこだわりはありますか?

自然の中の青って、一定じゃないですよね。

水の色や空の色は、時間や場所によって見せる表情が変わる。

幼いころから、そんなふうに感じていました。

その感覚を表現したくて、青い釉薬を使っています。

窯の中で、炎や気流によって流れた釉薬が、そのまま固定される。

その流動性や偶然性が、自分が感じてきた「青」に近いように思うのです。

—— 印象に残っている言葉はありますか。

篠原希さんの「言葉を研ぎなさい」という言葉です。

陶芸は土で表現するもの。

なので、言葉を大切にするという感覚はあまりありませんでした。

でも、この言葉を聞いて、日々の言葉を研げば、考えが研がれていく。

そうすれば、作品も研ぎ澄まされると感じました。

SNSで発信しているのも、その延長線上にあります。

—— シグネチャーとなった作品はありますか?

マグカップですね。

図書館で見つけた抹茶碗の作り方を参考にしたのがきっかけでした。

切り離したり、繋げたりする工程がとても面白くて、小さな部材が一つに統合されていく。

その過程で、一つの答えが見つかったような感覚がありました。

作りたいものはこれからも変化していくと思いますが、マグカップは作り続けていきたい作品です。

—— 制作の喜びを感じる瞬間と、難しさを感じる瞬間を教えてください。

窯詰めが楽しいです。

過去の経験から火の流れや温度の上がり方を想定して、パズルのように詰めていく。

一番想像力が働く瞬間です。

一方で、形を探している時はつらさもあります。

スケッチはあまり得意ではないので、作りながら形を探していくのですが、なかなか理想には辿り着きません。

理想ではないことは分かっていても、ではどうすれば理想の形になるのかが分からない。

足踏みしているような感覚になり、苦しく感じることもあります。

—— これからの挑戦を教えてください。

ホテルなど、空間の中に自分の作品が置かれることに興味があります。

雑誌やSNSで、ホテルのエントランスに壺が置かれているのを見た時、とても感動した経験がありました。

空間そのものが作品になっているように感じたのです。

器は、空間全体の雰囲気をつくることもできる。

ここ数年で壺を作り始めたのも、その挑戦の一つです。

—— 最後に、制作への想いをお聞かせください。

誰かに見せたいというよりも、自分の中にある衝動を昇華している感覚が強いです。

そのため、あまり他の人と比べることはありません。

作ることで満たされている、と言ってもいいかもしれません。

ただ、作った以上は誰かに見てもらう必要がありますし、生業としている以上、販売も考えなければなりません。

マーケティングの視点も大切だと思っています。

それでも、戦略や見せ方に終始してしまうのは、少し違う気がするのです。

純粋に「作る」という行為から離れてしまうような感覚があります。

自分の中には、そうした矛盾が確かにあります。

それでも作り続ける。

矛盾を抱えながら生きるほうが、人間らしい。

だからこそ、あえてその矛盾を大切にしていきたいと思っています。

工房で交わした言葉の一つひとつから、高橋さんが抱える迷い、そして確信が伝わってきました。

再現性と直感、戦略と衝動。

その矛盾を否定せず、制作の原動力として受け入れる姿勢が、器の奥行きとなって表れているように感じました。

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