【京藍染師:松﨑陸インタビュー後編】青い情熱
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-----仕事で喜びを感じる時はいつでしょうか?
「仕事は試行錯誤の連続です。
現代はスピードが求められますが、僕の京藍染は数か月、時には数年単位の時間が必要になります。
それに微生物の集合体ですから、すべてを思い通りにコントロールすることはできません。
だからこそ“自然を軸に”という考え方が生まれました。
今はこの考え方が自分の幸福度を上げていると感じています。
コントロールできない中で何が自分にできるか考える。
コントロールできないというのはある種の楽しさであって、諦めるということとは違うと思います。」

-----反対に難しさを感じる時はありますか?
「正直、すべてが大変です(笑)
900坪ある畑は一人で管理していますし、染めの作業でも重たいものを運んだりきつい態勢になったり、非常に体力が必要です。
それに僕の藍は人間の思うようには動いてくれない。具体的な納期とか完成のイメージとかを突きつけられると正直困ることもあります(笑)。」

-----900坪を農薬も使わずに管理するのは相当な努力が必要ですよね。想像するだけでも疲れてしまいそうです(笑)
-----藍染には微生物が必要とされるわけですが、バイオサイエンスの考え方などは取り入れたりされていますか?
「たしかに科学の分野にも藍の研究はあります。
でも僕は科学に頼りすぎないようにしています。
数値で藍を研究すれば、コントロールはできるかもしれない。
でも、奈良時代の職人たちにはその概念がなかったのです。
ですから、真に昔の技術に近づけるためには、彼らのように体で覚え、感覚で培うことが大切だと思っています。」

-----近隣の学校と協力されて藍染の授業などを行っているそうですね。それにはどんな意図があるのですか?
「現代は職人というものがすごく遠い存在になってしまったと思っています。
例えば、就職の情報サイトで職人の募集ってあまりないですよね。
興味を持っていたり、なりたいと感じていても、情報を知ることが難しい状況です。
僕が子どもたちにものづくりの楽しさや職人としての生活を共有できれば職人というものがもっと身近に感じられると思うのです。
僕が思うに大人の役割は、『子どもたちの将来の選択肢を増やすこと』だと考えています。
たとえ将来職人にならなくても、たくさんの選択肢の中から子どもたちが自分の未来を自由に描けるということが重要なんじゃないかと。
その考えから、教育の現場と連携を取るようにしているのです。」

-----業界のこれからのビジョンなどはありますか?
「僕は“業界”というものをあまり意識していません。
自分がやるべきことは、京藍を復活させ次代へ残し伝えること。
そして奈良時代の技術に追いつくこと。それが僕の挑戦です。
僕にとってのライバルは奈良時代の職人たちです。現代の時間軸とは乖離しています(笑)」

-----藍への情熱はどこから湧いてくるのでしょうか?
「20代前半、自分が何者でもないと気づきました。
だから“ひとつの事を極めたい”と思えるものを探しました。
それが藍でした。
お金にならず、やめようと思ったこともあります。
ここまで続けてこられたのは反骨心のようなものがあったからだと思います。
“苦しい状況の中でも本物を残したい”という気持ちが自分を突き動かしています。
奈良時代の藍染を見たときに、物は残っていくと実感させられたのです。
言葉は変化してしまうけれど、磨かれた技術は時代を超えて残ると思ったのです。
ものを通して未来の人にも語りかけられる。藍はそういう力を持っているんです。」

-----松﨑さん個人のこれからの挑戦などはありますか?
「大事なのは京藍が残ることです。
常に京藍が主軸です。
僕自身の名声にはあまり興味がありません。
もちろん褒められればうれしいですけど、最終的な目標としては、自分の存在よりも京藍の歴史が未来に残ってほしいです。」
