【Potter:八田亨インタビュー後編】これからの挑戦
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------ここからは少しパーソナルな質問に移ります。八田さんは好きな芸術家はいらっしゃいますか?
「リチャード・セラの巨大な彫刻には圧倒されました。
陶芸はどうしても窯に入るサイズしか作れないし、焼くと縮んでしまうので、どこかミニチュアを作っていうような感覚があります。
その点、人が内側に入れるようなスケールの作品、五感で没入できる芸術には羨ましさがあります。
あとは、アンリ・マティスが好きですね。
最近の私の作品は客観的に見て端正なモノばかりになってきた印象があります。
それに比べて、マティスの絵ってどこかへたくそで。
でも、そこがかけがえのない魅力で。見習うべき点があるなと思っています。」

------ご自身とは違った領域を持つ作家さんに惹かれていらっしゃるのですね。
------少し話を戻しまして、仕事で喜びを感じる時を伺っても良いですか?
「いいモノが焼けたときですね。ほとんどの場合は十分には納得できないです。
ですが、まれに自分が作ったとも思えないような理想的な作品が出来上がることがあります。
こういう時は本当にうれしいです。」

-------八田さんのおっしゃるいいモノとはどんなモノでしょうか。
「キャリアの中でいろいろなモノを作ってきました。
若い時に東京で個展をしたいと思って、キャリーケースいっぱいに自分の器を詰めて売り込みに行ったこともあります。
色々なギャラリーを訪ねましたが、みなさんがやんわりと教えてくださるんです。
まだ個展ができるレベルではないよ、と。振り返ってみると、あの当時はなんとなく作品を作っていたなと思います。
大皿だから、なんとなく大きさはこうで、深さはこうでという感じです。
おそらくこういう考え方を見抜かれていたのだと思います。
当時は器を作り始めてまだ期間が短かったですから。
今は、一つの作品に対して、数十、時には百を超えるようなこだわりを持って制作をしています。
使われている瞬間から逆算して、こだわりを詰め込む作業です。
誰も気づかないような小さな、とても小さな積み重ねなのですが、その一つひとつに意味があるんですよ。
このこだわりが僕の作品をいいモノにしてくれているのだろうと思います。」
------小さなこだわりの積み重ねがいいモノを生み出す。これはどんな仕事にも共通して言えることかもしれませんね。

------さて、八田さんのこれからの挑戦について伺いたのですが。
「一昨年に京都で「noma」というデンマークのレストランのポップアップストアがありました。
そこで私の器を使ってもらったご縁で、関係者向けのプレオープンにご招待いただきました。
後日、友人から味の感想を訊かれたのですが、答えるのが本当に難しくて(笑)。
見た目ではどんな味かわからないですし、口に運んでも今まで経験したことのない味がする。もちろん美味しいんです。
でも、美味しいという単純な感想ではなくて、今まで出会ったことがない新しい料理を体験した感覚でしたね。未知の味との出会いで楽しんだというか。
今の時代はあらゆる意匠が陶芸にはあります。歴史が長いですから。
古くから伝わるモノには確かにいいモノはあるし、時代を超越した魅力があるとも思っています。
しかし、私は桃山時代や李朝時代に作られたものを新しく解釈するだけではなく、世界中の人へ今までの概念を超えて、これは八田の作品だと分かるような新しい作品を作りたいと思っています。」

------最後にこれからの作家さんにメッセージをお願いしてもよろしいでしょうか?
「そんな偉そうなこと言えないですよ(笑)。
ただ最近の思いとしては、若い時代や売れない時代の経験が今になってすごく活きていると感じています。
みじめな思いもしたけれど、どの経験も無駄ではなかったな、と思いますね。
たぶん一つでも欠けていれば今には至っていないと思います。
今までに蒔いたすべての種が芽吹いてきたような気持ちです。
諦めずに続けてきてよかったなと。とにかく続けることが大事だと最近思っています。」
