【陶芸家:山田洋次インタビュー前編】作ることで救われる
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――まず、陶芸を志したきっかけから教えてください。
母が信楽で働いていて、子どもの頃からこの土地に来る機会が多かったのです。
なので、焼き物を作るという仕事があるということはなんとなく知っていました。
ただ、その頃は特別に興味があったわけではありません。
大学2回生のとき、焼き物をされている方に出会って、初めて「焼き物をつくる」ということを意識しました。
大学では化学を学んでいたのですが、これは高校時代の恩師の影響です。
「化学を学べば世界の仕組みがわかる」と言われて、その言葉に魅かれました。
この世界のあらゆる物質は化学的アプローチで理解することができるという意味だったと思います。
でも、学びを進めるうちに、自分はもう少し“概念的に世界を知りたい”と思うようになりました。
それで大学を辞めようかと迷っていた時期に、その方と出会ったのです。
「焼き物をやってみよう」と思えたのは、その出会いがきっかけでした。
偶然のようでいて、人生の大きな転機になりましたね。

――子どもの頃から、何かを作ることが好きだったのでしょうか?
特別に何かを作った経験があるわけではありません。
おそらく物づくり経験は他の方とさほど変わらないんじゃないかな(笑)
作るということへの認識が変わったのは兄の影響が大きいと思います。
実は兄が病気であまり学校に行けなかったのです。
その代わりに美術教室で彫刻とか絵画とかをして過ごしていました。
兄が物づくりをしている姿を見て、「作ることで人は救われるんだ」と子どもながらに感じました。
大学生の時に陶芸というものに触れて、自分も作ることで抱えている悩みから救われるんじゃないか、そう思うようになりました。

――長く器を作り続けてきて、理想の形というのはありますか?
「こうあるべき」というのはあまりないです。
自分の経験としては、今までに見たことのないものを見たときに心が動くことが多いです。
なのでそんなものが出来上がれば嬉しいですね。
あとは、器である以上は機能的な要点をちゃんと押さえることを意識しています。
器って、使う道具であると同時に、人の心を動かす可能性がある存在でもあると思いますね。
そこに少しの驚きや「なぜか惹かれる」という感覚があるといい。
理屈だけではなく、感覚的に惹かれるものを探しています。

※作品の一部
――素敵な工房ですが、こだわりはありますか?
周りに家がないことです(笑) いつでも窯焚きができますから。
設計に関してはほとんど大工さんにお任せしましたね。
お付き合いのある方で、この人にお願いすればいいものができあがるという確信がありました。
デザインだけでなく動線なども意識されていて、使いやすい工房です。

※工房から見える穴窯
――制作の中で大切にしていることは何でしょう。
「無理をしない」こと。意識的に肩の力を抜いています。
あとは先ほども少し話しましたが「決めすぎない」ことですね。
たとえば土も、4種類くらいの原土をブレンドしていますが、配合は決めていません。
その時の思い付きで混ぜる。
――“決めない”ことに不安はありませんか?
もう、ないですね(笑)
大きな失敗をたくさんしてきたので、ある程度結論の想定はできるようになりました。
極端な冒険はしないけれど、曖昧な部分を残しておく。
少し曖昧にして決め切らないくらいの方が自分の性格に合っていますね。

※窯の中の様子
土と向き合う時間の中で、「決めない」ことを選ぶ山田さん。
それは曖昧さではなく、積み重ねた経験から生まれた確かな自由でした。
後編は明日公開されます。