【京藍染師:松﨑陸】歴史への挑戦
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今日は、藍染について少しゆっくりお話ししたいと思います。
藍染の歴史は本当に古く、古代エジプトの遺跡から藍染の布が見つかったという話さえあるほどです。
アジアはもちろん、インドやヨーロッパと、世界各地で育まれてきた藍染。
実は藍には、防虫・防臭・抗菌といった効能が備わっています。
はるか昔に染められた布が、時を経てもなお残っているのは、この藍の効能によるものなのです。

藍染は、その名の通り「藍」という植物を用いて染めます。
もう少し詳しく言えば今回お話を伺った京藍染師・松﨑陸さんは約700年前の技法を用い、藍を発酵させて作る「蒅(すくも)」を、「藍甕(あいがめ)」と呼ばれる容器に溶かし、微生物の力を借りながら布を染めておられます。
生き物の働きを頼りにしているからこそ、日によって色の調子が変わり、思うようにいかないこともあります。
その不確かさを受け入れながら染めを重ねるところに、藍の奥深さがあるのかもしれません。

松﨑さんは、かつて京都に存在した「京藍」を復活させ再興を目指しておられます。
その姿は、ただの職人というよりも研究者、そして求道者。
奈良の正倉院に残された1300年前の藍染の紐が今なお朽ちていないことに注目し、歴史を紐解くことで、未来に残る藍染を生み出せるのではないか、そんな思いで挑み続けておられるのです。

長い歴史の中で受け継がれてきた藍染。
しかし同時に、時の流れの中で失われてしまった技術も少なくありません。
松﨑さんは静かにこう語ります。
「いまの技術では、千年後に残る藍染は作れないと思います。僕のライバルは1300年前の偉大な職人たちです。歴史を紐解き、かつての製法を再現できれば、千年後も残る藍染を作れるはずです。」

「出藍の誉れ」という言葉があります。
弟子が師を超えることを意味するこの言葉は、荀子の「青は藍より出でて、藍よりも青し」に由来します。
先人に学び、そして先人を超えようと挑む松﨑さんに、これほどふさわしい言葉はないでしょう。
同じ京都で、同じ時代に、これほどの挑戦を続けている方がいる。
その事実に触れるだけで、私の心にも火が付くように感じるのです。
