【陶房:洸春陶苑インタビュー前編】工房こそが自分の居場所

【陶房:洸春陶苑インタビュー前編】工房こそが自分の居場所

──なぜ陶芸の道へ?

うちは、代々焼き物を焼いてきた家なんです。

もともとは愛知で窯を構えていたようですが、曽祖父の時代に京都へ移ってきました。 

父から「継げ」と言われたことは一度もありません。

むしろ、半端な意志では継がせないという空気がありました。

陶芸の仕事も手伝ってはいましたが、特別な思い入れは当時はなかったですね。

化学に興味を持っていたので、大学では理系の学部に入り、卒業後はメーカーに勤めました。

──そこから陶芸の道に戻るきっかけがあったのですね。

ある時、久しぶりに実家に帰ったときに、ふと工房の空気を感じたんです。

土の匂いや窯の音に囲まれた時に、「自分の居場所はここなんじゃないか」と感じました。

それで、24歳のときに父に話して、戻ることを決めました。

父も覚悟のようなものを感じ取ったようで、すんなりと陶芸の仕事をすることを許してくれました。

修業を始めたのはその頃です。

子どものころから工房の手伝いはしていましたが、轆轤(ろくろ)などはほとんど触ったことがありませんでした。

ただ、仕事の大きな流れや“段取り”はある程度わかっていたので、それがアドバンテージになりましたね。

──理想の器とはどんなものですか? 

「これで食べたい」「これで飲みたい」と自然に思ってもらえるものですね。

魯山人が“器は料理の着物”と言っていますが、本当にその通りだと思います。

いくら造形が美しくても、使えなければ器とは言えないですよね。

使うことを想定した所謂「用の美」と器自体の持つ「普遍的な美」。

この2つのバランスを取ることを意識しています。

抽象的な表現ではありますが、桜のような器を作りたいです。

桜って誰が見ても美しいと感じますよね。

そんな誰が見てもポジティブに印象を持つ器が私の理想の器です。

※絵付け作業

──様々な焼き物をお作りですが、モノづくりへのこだわりはありますか?

あまりこだわりは持たないようにしています。

もちろんないことはないですよ(笑)

でも、我々はお客様からの依頼を受けて制作をしているので、 こだわりを全面に出してしまうとお客様のニーズに応えられないと思うのです。

お客様と対話しながら、柔軟にそれでいて理想の上を目指すようなモノづくりをしています。

お客様の理想を超えたものを作って驚かせようというのが、ある種のこだわりかもしれません。

※作品たち

──お客様を驚かせたいというのはすごく高島さんらしいご回答だと思います。

──お話を伺っているこの工房ですが、なんとなく落ち着く不思議な魅力がありますね。この工房へのこだわりはありますか?

80年ほど前にこの土地に移ってきて、今の建物の原型ができたのは60年ほど前だと思います。

この60年の間にリフォームを繰り返しているので当時の形はほとんど残ってないですね。

何度もリフォームをしているのにも理由があります。

それは、仕事のしやすい動線に常にこだわっているからです。

仕事がしやすいというのは段取りがいいということです。

先代たちが、それぞれの時代に合わせて少しずつ工夫を重ねてきて、私も自分なりに手を加えました。

時代や使う人に合わせてブラッシュアップしているという感じです。

※削りの作業の様子。削ることで余分な土を落とす。

──職人さんたちの思いが受け継がれた工房なのですね。続いて、土へのこだわりについてもうかがっても?

うちは、先代も先々代も磁器を扱うことが多かったので、今も磁器を作ることが多いです。

ただ、焼き物であれば幅広く対応できるように、さまざまな種類の土を常に揃えています。

これも先ほどの話と通じますが、特定の「この土しか使わない」というようなこだわりはありません。

大切なのは、お客様の要望に応えること。

そのためには、制作の幅を持っておく必要があると思っています。

なんせ、私たちは“作家”ではなく“職人”ですから。

──お客様の要望からどのように最適解を導き出すのでしょうか?

何かを考えようとしてスケッチブックやクロッキー帳を広げても、意外と出てこないんですよ。

人と話しているときに、ひらめくことが多いですね。

会話の中で「ああでもない、こうでもない」と言っているうちに、最適解がぼんやりと見えてきます。

あとは、作業中にふっとひらめくこともあります。

轆轤を引いている時や絵付けをしている時に、こうすればうまく行きそうだなと思いつくのです。

後半は明日公開されます。

 

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