【陶房:洸春陶苑インタビュー後編】職人として

【陶房:洸春陶苑インタビュー後編】職人として

──ものづくりにおいて、大切にしている考え方はありますか。

「できないと言うな」 これは先代から伝えられた言葉で、私が大切にしている考え方の一つです。

もちろん、物理的にも時間的にも不可能なことはあります。

それでも、お客様は何かに困ってうちに相談してくださっているわけですから、できないという言葉は可能な限り口にしたくないですね。

断るという選択肢も確かにあるんですが、それでは成長できない。

試行錯誤を続けることが、結果的に自分を支える力になるのだと感じます。

──ほかにも先代たちからの教えはありますか。

もちろんいろいろとあるのですが、うちは先人の教えを守れという雰囲気ではなかったですね。

人が変われば作るものも変わる、哲学だって変わる、それが自然だという考え方でした。

むしろ、同じことを続けていて残っていけるほど甘い世界ではないと教わった気がします。

時代に合わせて新しいものを生み出すことが、続けていくための条件だと思っています。

自分の個性を理解して、納得して、それを表現していく。

あえて違う道を選ぶのは不安もありますが、それが必要なことだと感じています。

※磁器の可能性を探る作品

──得意なものづくりはありますか?

正直、得意不得意はあまり意識していません。

ただ、うちの仕事は「機械が苦手なことをやる仕事」だと思っています。

たとえば「この商品を5ミリ大きくしてください」と言われたとき、機械で対応しようとすると型を作り直したり時間がかかると思います。

でも私たちは少し作業を変えるだけでできてしまう。

その自由度の高さこそ、職人の強みだと思います。

──仕事の喜びはどんなときに感じますか。

納品できたときですね。

納品というのは、商品たちが“うちの工房を卒業していく”瞬間でもあります。

うちは一点ものの作家仕事ではないので、作品ひとつで一喜一憂することはありません。

お客様が「気に入ったからもっと作ってほしい」と言ってくださるとき、その時が一番うれしいかもしれません。

──反対に、苦しい瞬間は?

山ほどあります(笑)

もう30年近く焼き物を続けていますが、いまだに思うようにいかないことは多いです。

トライアンドエラーの中で息が詰まるような時もあります。

もちろん仮説を立てて検証はしますが、納期が迫ると焦りも出る。

それでも、その過程でしか得られない感覚がある。

うまくいかない経験も、いつか次の手につながります。

※削りで使用するへらたち

──焼き物は自然に任せる部分が多いとも言われます。コントロールできない部分についてはどう考えますか。

瞬間的にはネガティブになることもありますが、長い目で見れば楽しんでいると思います。

私たちの仕事は、職人の仕事。

なので、ある程度まではコントロールできるようにしています。

むしろ常に同じクオリティを保つためには、そうしなければならない。

でも同時に、“コントロールできない部分”へのあこがれもあります。

火の神様に任せるようなモノづくり、その世界も素敵ですよね。

──モノづくりの魅力とは?

陶芸というのは“職業を選ぶ”というより、“生き方を選ぶ”ことなんです。

物を作るということは、お金を稼ぐということだけではなくて、モノづくり特有の魅力に触れるということです。

私が思うにモノづくりは人間の特権です。

いろんな仕事にモノづくりはありますが、自分の掌で直接形を生み出せるのは、職人の世界ならではですね。

陶芸という生き方はやっぱり面白いですよ。

──これから陶芸を学びたい人へメッセージをください。

焼き物作りは自転車と同じです。

最初は転んでも、続ければ必ずできるようになります。

それに一度身につけた感覚は忘れません。

もし本気でやってみたいという人がいれば、うちの工房をぜひ訪ねてほしいです。

私は“開かれた工房”を目指しています。

多くの人に陶芸を身近に感じてもらいたいからです。

最初のうちは大変だと思いますが、続けるために必要なのは情熱だけです。

モノになるまで3年、5年かかるかもしれません。

でも、その時間をかける価値がある世界だと信じています。

──今後の挑戦についてお聞かせください。

他業種との協業を進めていきたいです。

焼き物の機能を保ちながら、異分野とコラボすることで新しい可能性が広がると思います。

そして何より、長く続けてきた職人が報われる社会にしたいです。

経済的にも社会的にももっとスポットライトが当たっていい存在だと思います。

──最後に、インタビューを通して“職人”という言葉に誇りを持たれているように感じますが、作家と職人の違いはどこにあると思いますか?

作家さんのお仕事は自分の内側を表現して、社会に問いかけることだと思っています。

これが得意ではないと36歳の頃に気が付いたのです。

自分の表現よりもお客さんを喜ばせたいという気持ちが勝ってしまう。

そうか自分は職人の方が性に合っているなと気が付きました。

自分の個性に納得して引き受けたのです。

制作の流れとして卵が先か鶏が先かという感じで、どちらも美しいものを作りたいという気持ちは変わりません。

ただ私にとっての喜びは、お客様のニーズに応えて笑顔を生み出すことなのです。

高島さんと話していると、「ものづくり」という言葉、そして「職人」としての生き方がどういったものか気づかされました。

この開かれた工房は、時代を超えて多くの人に愛されることでしょう。

私もまたこの工房を愛する者の一人です。

 

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