【陶芸作家:イェンユウ インタビュー後編】風景をすくい、器に映す
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——現在の工房について教えてください。
「天井が高くて、すごく開放感があります。
すりガラス窓から自然光が入るので、居心地がいいですね。
周囲も静かで、制作に集中できます。
ときどき野良猫がふらっと現れるんですが、そういう時はつい手を止めてしまいます(笑)。
でも、その時間も悪くないなと思っています。」

——環境は、作品に影響しますか。
「かなり影響すると思います。
ここに来てから、作品に渋さがさらに出ていたと言われることもありました。
人は、環境や感情にすごく左右されるものだと思うのです。
心に小さなさざ波が立っていると、作品の表情も自然と変わってくる。
その揺らぎも含めて、大切にしたいと思っています。」
——釉薬を筆で塗る手法が印象的ですが、いつ頃からされているのですか。
「多治見市意匠研究所で勉強をする中で、いろいろな釉薬の掛け方を試しました。
その中で、一番自分に合うと感じたのが筆でした。
筆で釉掛けをすると揺らぎや作品ごとの表情が生まれます。
それが私の表現したいものにはすごく合っていると思います。」

——釉薬ごとにイメージがあるそうですが、どんなイメージを込めていますか。
「今は、主に6種類の釉薬を使って重ね塗りをしています。
また、焼成方法や温度によって、さらなる豊かな変化も出てきます。
例えば、緑と白の配色は日本の雪の中で寒さに耐える苔の景色からインスピレーションを得ました。
他にも旅先や日常で見た景色など、自然から受け取ったイメージを自分の中で咀嚼して、
台湾人の自分ならではの解釈を含め、器に落とし込んでいます。
日本の方には当たり前にある景色でも、私にはすごく新鮮に感じられるのです。」
——形については、どこからイメージを得ていますか。
「形は台湾のイメージがベースですね。
台湾の料理が乗っているシーンからイメージを膨らませています。
なので、どの作品も日本と台湾のインスピレーションが混ざっていると思います。
どちらかに寄せるというより、自然に溶け合っている感覚です。」

——仕事の楽しさは、どんなところにありますか。
「作っている時は、基本的にずっと楽しいです。
もちろん力仕事で疲れることはありますけど(笑)。
制作していてつらいとかあまり感じないので、陶芸というものは本当に自分に合っているのだと思います。
あとは、展示や出店でお客さんと直接話せる時間も好きですね。
器を見てもらってそのリアクションを直に感じられる。
こういった経験がその後の制作に活きていると思います。」
——今後の挑戦について教えてください。
「具体的な目標はあまり立てていなくて、その時々で作りたいものは変わっていくと思います。
でも、ずっと器を作り続けたいという思いは変わらないです。
年齢や環境が変われば、表現も自然と変わっていくはずなので、その流れに逆らわずにこれからも制作していきたいですね。」

——器を通して、伝えたいことはありますか。
「いろんなイメージや思いは込めていますが、押し付けたいわけではありません。
作り手の想いと同じくらい使い手の解釈も大切にしたいです。
自由に使って、その人なりに愛してもらえたら、それが一番うれしいです。」
——最後に、海外での挑戦を考えている方にメッセージをください。
「人生は一度きりなので、迷っているなら挑戦してほしいです。
文化や言語の壁は確かにあります。
私もさみしい思いやつらい思いもしました。
それでも、それを超える価値はあると思います。
言語力も技術も最初はなくて当たり前です。
そういうものは後からついてくる。
あまり頭で考えすぎずに、自分の好奇心や情熱を信じてほしいですね。」

光が差し込む工房で土に触れながら語られるイェンユウさんの言葉は、どれも穏やかでありながら芯のあるものでした。
風景や記憶、感情の揺らぎをそのまま受け入れ、器の中にすくい取っていくような制作。
彼女の器は、これからも多くの物語を重ねていくのだと感じました。