【陶芸家:十場あすか】暮らしを照らす白い灯り

【陶芸家:十場あすか】暮らしを照らす白い灯り

神戸市の中心から車で北へ一時間。

道の両脇には田畑がゆるやかに広がり、古寺の屋根が遠くの山影に寄り添います。

茅葺屋根の残る集落の中では、風景はいっそう静まり返り、時が深呼吸する音さえ聞こえてきそうです。

この土地に、土と向き合い暮らす陶芸家・十場あすかさんがいます。

彼女の器は白を基調としながら、ひとつとして同じ白を持ちません。

やわらかさを含んだ白、薄い影がとけ込むような白、ふと触れたときに温度が移っていくような白。

それらはどれも生活の中に居場所を見つけ、使う人の心をそっとほぐしてくれる力を持っています。

まるで器そのものが、小さな灯りを胸の奥に灯してくれるかのようです。

工房は、以前ご家族が暮らしていた家を改装したものだといいます。

「あのあたりで家族みんなで食事をしていたんですよ。」

そう語るあすかさんの声には、懐かしさと穏やかさが混じっていました。

窓辺に立つと、ゆるやかに起伏する畑や木々の影が、季節ごとの色をまといながら広がっています。

葉っぱ一枚にも感動があるという彼女の言葉は、この自然の呼吸の中で暮らし、つくる人ならではのもの。

そんな土地の気配が、器の穏やかな表情にそっと重なっているように思えました。

作り込みすぎないこと。

完璧を求めすぎないこと。

土を無駄にせず、一つ一つの器に丁寧に向き合うこと。

十場さんが語る“制作への姿勢”は、どれも慎ましく誠実です。

インタビューをしているというより、森の中で風の音を聞いているような、不思議と心が安らぐ時間でした。

取材の帰り際、あすかさんからのお誘いで、近くのお寺に立ち寄り、お茶をいただきました。

秋の夕暮れ、山端の光がゆっくりと冷えていく中、湯気を揺らしながら微笑むあすかさんの横顔は、彼女の器が纏うあたたかさそのものでした。

仕事の話から離れ、家族のこと、暮らしのことが静かにこぼれていく。

そのひとときは、時間の層がほぐれていくような、やさしい時間を生んでいました。

陶芸は、土と火と人の暮らしがつくる、自然によるひそやかな循環の芸術。

その中心に佇む十場あすかさんの作品は、使う人の記憶にそっと寄り添う“風景”のように、長く長く心に残ります。

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