【陶芸家:安藤由香インタビュー後編】まだ見たことのない色を探して
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—— 作品の完成は、どのように判断しますか。
自分の中には、「ここだ」という完成のポイントがあります。
頭の中で思い描いていた形や色に、きちんと辿り着けたかどうか。
制作していると、どうしてもそこを狙いすぎてしまうところがあります。
ただ、その感覚が必ずしも正しいとも思っていません。
時間が経ったり、周囲の見方に触れたりすることで、
「これも完成だったのか」と考え直すことも増えました。

—— 陶芸という制作の都合上、ピンポイントを狙うのは難しい部分もあると思いますが。
そうですね。
完璧主義で、視野が狭くなってしまうのはずっと課題だと思っています。
特に、使っている釉薬は色ムラが出やすくて、コントロールしきれない部分も多い。
だからこそ、思い通りにいかなかった作品が生まれると、正直かなりへこみます。
なぜうまくいかなかったのか、ずっと考えてしまう。

—— そういう時、どう気持ちを切り替えていますか。
最近は、「まあいいか」と思うようにしています。
完璧主義なところがあるのは自分でも分かっていて、こだわり過ぎると前に進めない。
一度、気持ちを落ち着けて、次の制作に向かうための「まあいいか」です。
呪文のように繰り返し唱えている日もあります(笑)
—— 制作中、頭の中はどんな状態ですか。
轆轤と釉薬では、まったく違います。
轆轤を引いているときは、比較的リラックスしています。
スケッチした形を、手の感覚でなぞっていくような感じなので、音楽を聴いたり、映画を流していたりすることもあります。
一方で、釉薬をかけるときは違います。
あの時間は、本当に神経を使う。
無音の中で、目の前のことだけに集中しています。

—— 作品の変遷について教えてください。
昔は、もっと渋くて、モノトーンに近い作品が多かったです。
デンマークでの生活を経て、今の作風に近づいてきたと思います。
デンマークに渡った当時は、陶芸を辞めようかと本気で悩んでいました。
2011年に弟子入りを終えて、作家としてやっていこうと思った矢先に震災があって。
大切な物が壊されたり、流されたり。
そんな世の中の状況を見ていると、自分の仕事は重要ではないのではないか、
物を作っても仕方がないのではないか、そんなふうに思ってしまったのです。

—— そこから、なぜ再び陶芸へ?
デンマークでの生活の中で、人が物をとても大切に扱っている姿を見ました。
決して高価ではないものでも大切に大切にしている光景に触れて、
「やはり、物を作ることは尊い仕事だ」と思えた。
それが、もう一度陶芸に向き合うきっかけでした。

—— 仕事の中での喜びはどのような瞬間に感じますか?
窯出しですね。
自分の想像を超える作品が出てきたときは、やはりうれしい。
ただ、その喜びは2、3日で落ち着いてしまいます。
時間が経つと、「もっと美しい表現ができたのではないか」と考えてしまう。
あとは、個展でお客さんに作品を褒めていただくと、素直にうれしいです。
—— 苦しいと感じるのはどんな時ですか。
話し相手がいないことです。
話すのが好きな人間なので(笑)
—— これから挑戦したいことは?
大きいものを作りたいと思っています。
これまでは、制作の大変さもあって避けてきましたが、京都での個展をきっかけに、
「大きなものも楽しい」と感じるようになりました。
現在計画している次の工房では、大きな窯を入れて、大物にも挑戦していきたいです。
—— もし何かの事情で作れなくなったら、どうしますか。
いろいろな仕事をしてみたいですね。
話すのが好きだからカフェとかで働いてみたいと思ったりすることもあります。
実は去年、半年ほど制作を休んでいました。
身体的にも精神的にも、限界が近かったのです。
それでも踏みとどまれたのは、「まだ見たことのない色を見たい」と思ったからです。
その気持ち一つで、戻ってきました。
そういったことを考えると、いろんな仕事に挑戦したい思いはありますが、
陶芸家はやはり特別な仕事かもしれません。

—— 最後に、若い陶芸家へメッセージをください。
続けることが大切です。
言い換えれば、やめないこと。
先ほどもお話ししましたが、私自身辞めたいと思ったことは何度もあります。
それでも。
細くてもいいから続けてきた。
だから、今があります。
当たり前のことですが、すごく重要なことだと思います。

取材を通して感じたのは、安藤さんが制作について語るときの、揺れを受け止めるような姿勢でした。
思い描いた形や色に届いたかどうかを確かめながら、思い通りにならなかった結果もまた次へとつなげていく。
その積み重ねが、作品の表情をつくっているように思います。
「まだ見たことのない色を見たい」という言葉は、目標というよりも、これからも作り続けるための原動力のように響きました。
安藤さんの作品たちは、その途中に立ち現れた一つの風景なのかもしれません。