【陶芸家:山田洋次インタビュー後編】何かを探し続けて

【陶芸家:山田洋次インタビュー後編】何かを探し続けて

――工房には、いくつもの窯がありますが、それぞれの特徴を教えてください。

薪窯が2つと電気窯が2つあります。

薪窯は「いってこい窯」と「穴窯」です。

いってこい窯は炎が戻ってくる構造の窯です。

熱効率が良く、薪窯にしては扱いやすいので本焼きに使うことが多いです。

穴窯は、もう少し大きくてじっくり時間をかけて焼くタイプですね。

この2つは炎で焼き上げるので仕上がりもその都度変わります。

薪窯はなんとなく作品が自分の手を離れていく感覚があります。

コントロールは難しいですが、薪窯も楽しいですよ。

電気窯は仕上がりに与える影響がさほどなく、クリーンに仕上がる印象です。

これはこれで気に入っています。

窯はたくさんありますが、正直な話、手を動かす作業が好きなので焼くのは人に任せたいと思うこともあります(笑)

※穴窯の様子

――民藝というものについて、どのようなお考えをお持ちですか?

スリップウェアに出会ったのは大阪の民藝館での展示です。

ポスターを見た段階から、物全体が放つ力強さに惹かれて衝撃を受けましたね。

なので、民藝というものにも大きな影響を受けたと思います。

イギリスでの生活も、少なからずその延長にあったと思いますね。

向こうでは別のことを学びましたが(笑)

ただ、民藝には決まった“物差し”があって、僕がやりたいことはその物差しの外側にあった。

なので、自分の焼き物は民藝とは少し違うところにあると思います。

物差しがないと伝統は守れないし、それはすごく意味のあることだと思います。

でも、僕はイギリスで別の物差しを手に入れてしまった。

だから、きれいな形では馴染めなかったかな。

これはあくまでもカテゴライズの話であって、考え方や技術から学んだことは多いし今の仕事に確実に繋がっています。

――制作の中で喜びを感じる瞬間は?

調子のいい時です(笑)

おそらく、生きている中で様々なノイズが存在しているのだと思います。

仕事のこと、生活のこと、あるいは自分でも気づいていない何か。

自分でも分かり切っていない存在。

ノイズはあって当然のものだし、決して悪いものでもないと思っています。

このノイズと共存している時。

これが調子がいい時なのかな。

こういう時は考えるよりも先に手が動いて、自分でも驚くことがある。

自分の中に蓄積しているものが、不意に形になって現れるのだと思います。

泥漿(液体中に鉱物などが混ざっている混合物)を掛ける山田さん

――反対に、しんどいときはありますか?

あまりしんどいという感覚はないですね。

めんどくさいとかはありますよ(笑)

でも、やらないと進まないので、やるしかない。

当たり前の話ですが、手を動かさないと絶対に前に進めない仕事なので、とりあえずやるという感覚です。

それに基本は一人で仕事をしていますからね。

自分が手を動かすしかないのです。

逆に一人で仕事をしているから、自分のペースを守れているとは思います。

だから大きなストレスを感じることが少ないのかな。

――焼き物をされている若い方にメッセージをください。

焼き物は一人でも始められる仕事。

始めるハードルは低いんじゃないかな。

ある程度続ければ技術も身について、誰でも作れるようになると思います。

でも、ずっと続けるのはそれなりに難しさがありますよ。

できることが増えてくるとやりたかったことが分からなくなる時が来ます。

周りの声や評価で自分自身が見えなくなってくる。

そんな時にも「自分は何を考えているのか」「何が好きなのか」――そこを見つめ続けることが大切です。

始めるのはやさしくても、続けるには軸が要ると思いますね。

――最後に山田さんのこれからの挑戦についてお聞かせください。 

「これ、いいでしょ」という気持ちはもちろんあるのですが、受け取る人が能動的に反応してくれるようなモノ。

感覚の触手をそっと動かすような、そんな焼き物が出来上がったら嬉しいですね。

先ほどの話にも通じますが、続けていくうちに作りたいモノって変わっていくと思います。

現時点での答えはこれだけど、未来の自分の答えは変わっているかもしれない。

でも、それでいい、そう思います。

今でも探し続けている感覚があります。

歳を取るとなかなか見つからないですよ(笑)

こうやって何かを探し続けることが、作り続ける理由なのかもしれませんね。

信楽の山の空気を吸い込みながら、山田さんは今日も土と向かい合っておられます。

炎にゆだね、形を決めすぎず、自由に生まれる器たち。

そのひとつひとつは、衒いのないありのままの姿で、まるで山田さんの分身のように感じられました。

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