【陶芸家:岩崎龍二インタビュー前編】狙わない美しさ
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—まず、陶芸の道に進まれたきっかけからお聞かせください。
幼いころから粘土が好きだったのです。
油粘土や紙粘土でよく遊ぶ子どもでした。
自分の手から様々な形が出来上がるのが、純粋に楽しかったですね。
それが陶芸を志す原点になりました。
本格的に陶芸を始めたのは18歳のころ。
轆轤を引いたときのダイナミズムとライブ感に衝撃を受けて、そこから一気にのめり込みました。

—「ライブ感」とは、どんな感覚なんでしょうか?
形が一気に立ち上がっていくんですよ。
粘土が回転の中で変化していくあの瞬間はすごく魅力的です。
自分の手の動きと土の反応が直結していて、まるで対話をしているような感じです。
—講師としても長らく活動されていたそうですが、どんな経験でしたか?
生徒さんは本当に個性的で、僕にはない発想をたくさん持っていました。
教えているつもりが、気づけば僕のほうが学んでいることも多かったですね。
陶芸教室ですから、さまざまな職業や考え方を持った方がいらっしゃいます。
そのおかげで、他の世界も知れたし様々な価値観を得ることができました。
—岩崎さんにとって「理想の器」とは?
誰かの生活の中に、自分の器がひとつでもあれば、それで十分うれしいです。
日常の中に寄り添うような器が僕にとっての理想だと思います。

※作品の一例
—制作の中で、「美しい」と感じるのはどんな瞬間ですか?
陶芸には沢山の工程がありますから、その都度美しいと感じることもあります。
でも、結局は焼き上がるまでわからないのですよ。
釉薬が流れて、窯の中で表情を変えていく。
だから、窯を開けたときに初めて「美しいかどうか」の”判断”ができる。
狙い過ぎない美しさ、それを出せた瞬間が一番楽しいです。

—“狙い過ぎない美しさ”というのは、偶然を楽しむということですか?
そうですね。
アイデアは作っている過程で出てくることが多いのです。
なので、その時の想いやひらめきを大切にしたいですね。
「これとこれを混ぜたらどうなるんだろう」っていう実験の積み重ね。
計算よりも、ひらめきや偶然に導かれる美しさを探しています。
創作の過程で出来上がってくる瞬間的な美しさをそのまま表現したいです。
陶芸って工程が多いので、その過程の中で不意に“あ、これだ”という瞬間があります。
じっと考えているだけではなかなか出てきません。
例えば、スケッチで形を描いても、実際に土と向き合っているとこうした方がよいという気付きがあります。
やはりそのライブ感が陶芸の面白いところだと思います。

※削りの工程で使われるへらや刷毛
—素材として半磁器を使われていますが、その理由は?
もともとは陶土を使っていました。
でも陶土だと白を表現するのが難しかったのです。
その点、半磁器は自分が出したい色をしっかり表現できます。
自分が使っている釉薬との相性もいいし、器としての強度も上がります。
いまは自分の表現に一番合っている素材ですね。

—窯にもこだわりがあると伺いました。
はい、電気窯を使っています。
一番の特徴は温度の精密にコントロールができることです。
僕の使っている釉薬や灰は温度が高すぎても低すぎても思うような表情が出ないんです。
それに、冷ますときの温度管理も重要なので、しっかり調整できる窯が欠かせません。
今の窯はメーカーさんに特注したもので、僕の表現を本当によく支えてくれています。
後編は明日公開されます。