【su-nao home:松本圭嗣】素直に生き、素直につくる。黒の器に込めた、日常に寄り添うモノづくり

【su-nao home:松本圭嗣】素直に生き、素直につくる。黒の器に込めた、日常に寄り添うモノづくり

――まず、陶芸と出会ったきっかけから教えてください。

陶芸に出会ったのは、21歳の頃ですね。当時、アメリカに留学していたんですよ。日本の大学に3年通ったあと、2年間アメリカに行っていて。そこで初めて陶芸に触れました。

実はそれまで、アートに触れる機会はあまりなかったんですが、留学先の大学のカリキュラムにアートの授業があって。たまたまデザインの授業を取ったんですが、その先生がすごく良い先生で。

『アートってこういうものだよ」っていうことを教えてくれたんですね。それで、アートって面白いなと思ったんです。

――そこから表現への関心が高まっていったと。

そうですね。『自分を表現するって何だろう?』って考えるようになりました。

何かを作ること自体がすごく楽しくて、デザイン、絵画、写真、陶芸といろいろ授業を受けました。その中で、陶芸が一番面白かったんです。「これを一生の仕事にしたいな」って思いました。

それで日本に帰ってきてから、陶芸を本格的に学びたいと思って、多治見へ行きました。多治見市陶磁器意匠研究所の研究生として入り、2年間陶芸を勉強しました。

当時はもう本当に楽しかったんでしょうね。寝ずに朝まで粘土を触っていることもありましたから(笑)。とにかく夢中でしたね。

――その後、作家として活動を始められたんですね。

最初は松本圭嗣という個人名で、オブジェなどのアート作品を作っていたのですが、2015年にsu-nao homeを立ち上げてからは、器を中心に制作するようになりました。

食卓に合う器を作りたいと思って。ハンバーグや唐揚げ、オムライスみたいな、普段の家庭料理に合う器ですね。

そういう日常の食卓に自然に馴染むものを作りたいと思ったんです。

なので、サイズ感や軽さ、器の重なりやすさなど、使いやすさはしっかり作り込みたいと思っていましたね。

――黒一色にした理由は?

シンプルなものが好きなんです。一色だったり、ピュアなものだったり。そういう個人的な思いがあって、黒一色にしています。

黒って、緑や赤の食材がすごく映えるんですよ。食材がより美味しそうに見える。なので黒の器を使ってほしいなと思って作りました。

でも最初は『黒い器って美味しく見えるの?』って言われることもたくさんあったんです。

そんな時は料理を盛った写真を見せながら、『こんな感じに見えますよ』って説明していましたね。

今ではだいぶ受け入れられて、逆に『黒って美味しく見えていいですね』って言っていただけるようになりました。

――どうしてsu-nao homeというブランド名にしたのですか?

『素直』っていう言葉が、個人的にすごく好きなんです。

英語の“simple”を日本語にすると“簡単”という意味に捉えられがちですけど、僕の中では“素直”という意味を持つような感覚なんです。

作るものも、とにかく素直なものがいいなと思っていて。

僕にとっては、生き方そのものなんですよ。いろんなことを素直に受け止めて生きたいなって。そういう思いが強いです。

――個人作家時代とブランド立ち上げ後で、意識は変わりましたか?

大きく変わりましたね。

個人名でオブジェを作っていた頃は、意識がずっと自分に向いていたんです。自分が表現したいもの、美しいと思うものを追求していました。

でもブランドにしてからは、使ってくれる人の方を見るようになりましたね。使ってもらって、喜んでもらえることが嬉しい。

だから、自分が作りたいものというより、人が求めるものを作ろうと考えるようになりました。――制作の中で大切にしている考え方はありますか?

僕、失敗って存在しないと思っているんです。すべて改善なんですよ。

失敗には必ず原因があって、それを解消していくだけ。積み重ねることで作品の完成度も上がるし、仕事の時間管理にもつながる。生活すべてに通じていると思っています。

何か不具合があれば、修正点が見つかってラッキー、という感覚ですね。

例えば陶芸って、焼成の段階で1割くらいは割れてしまうんです。だから10枚注文があれば13枚作る。あらかじめ織り込んでおけば問題ないんです。

あと、僕は“引き算”が好きなんです。

引くことで純化して、磨き上げていく。そうすると美しいものが残る、という考えがあります。

どういう理由で、どういう構造でこうなっているのかって、深く考えるのが好きなんですよ。突き詰めていくと本質が見える。

無駄を削ぎ落として、美しいものだけを残したいという思いはとても強いですね。

――松本さんは陶芸教室も開かれていますよね。

きっかけは、知り合いから『教えてほしい』と言われたことでした。

一人で工房で制作しているので、『空いている時間ならいいですよ』って始めたんです。

すると、いつの間にかだんだん生徒さんが増えてきて。

今では、生徒さんが『楽しかった』って笑顔で帰っていくのが自分の中での大きな喜びです。

一人一人、ニーズが全然違うんですよ。

ゆっくり楽しみたい人もいれば、本格的に良いものを作りたい人、プレゼント用に作りたい人もいる。

そういう方々と対話しながら、僕の技術を教えて喜んでもらえるのは、本当に嬉しいですね。

――作家としての制作と教室、どちらも大切なんですね。

どちらも僕の人生にとってすごく大切なものです。

陶芸って、人生に彩りを与えてくれるんですよ。

仕事としての楽しさもあるし、趣味としての楽しみもある。作って楽しい時間を過ごして、自分で作ったものを家で使う。このサイクルがすごく素敵だと思います。

――ここまでの歩みを振り返って、どのように感じますか?

今の自分の環境にたどり着けたのは、やっぱり運が大きいと思っています。もし陶芸じゃなくて別のことをしていたとしても、きっと同じようにものづくりや表現について考えていたとは思うんです。

でも、陶芸に出会って、それを仕事として続けられているのは、本当に恵まれているなと感じます。

人って、やっぱりどんどん変わっていくものだと思うんですよね。僕自身も陶芸に出会ってから少しずつ変化してきましたし、この先も、何を目的に作るのか、どんな思いで作るのかは変わっていくかもしれない。

もしかしたらまた原点に戻ることもあるかもしれないし、さらに違う方向に進んでいくかもしれない。でも、その時々の自然な流れに身を任せながら、これからも作り続けていけたらいいなと思っています。

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